「喰らえ!フィアガイアー!」
公園の広場で、一人の桜色の鱗のドラゴンの少女が三人の少年に寄ってたかって虐められていた。
体はゲームに出てくる呪文の名前の掛け声と共に投げつけられた泥ダンゴと地面の砂で黒く汚れている。
「どりゃー!ドラゴン斬りー!」
棒切れが少女の頭に当たり乾いた音が響く。
「や、やめてよ・・・」
「竜魔王!弱ったふりをしても無駄だ!」
「罠だってことは俺達にはお見通しなんだぞ!」
うずくまった姿勢で弱々しい声を上げる少女に次に浴びせられたのは罵倒と蹴りの嵐だった。
わずかな間に次々と靴の跡が刻まれていく。
「魔物は世界を侵略している悪い奴だ!俺達がやっつけて世界を平和にしてやるぜ!」
「ち、違う・・・」
「うるさい!魔物の王の竜魔王がそんなこと言ったって誰も信じねぇよ!」
棒切れが再度唸りを上げて少女の頭を打ちのめした。
「いっ!」
「よーし!これで止めだー!ファイナルクラッシュスパークウルトラ・・・」
一人が小学生によくありがちな強そうな言葉をただごちゃ混ぜにした必殺技名と共に、棒切れを大きく降り被った。
「うぅ・・・」
少これから頭に来る痛みを想像して、少女は頭を抑えて震えていた。
だが、いつまで待ってもその痛みは来ることはなかった。
「なんだこいつ!」
「いてっ!」
「この!くそ!」
慌ただしい様子の三人組の声が聞こえるだけであり、一向に自分に何も起きる気配は無い。
次第に三人組から発せられる声の頻度とボリュームは小さくなり、ついに聞こえなくなった。
少女は何事かと顔を押さえている手を外し、瞑っている目を恐る恐る開けると、そこにはさっきの三人組はおらず、それとは別の前髪で目を隠した少年が立っていた。
「おーくん・・・」
彼は少女、柳仙桜華(りゅうぜん おうか)の幼馴染の矢又 卸地(やまた おろち)。
この二人は遊び場が近いことから度々会って遊ぶ仲であり、特に桜華は気弱な性格と見た目のせいで格好の虐めのターゲットであり、いつも卸地に助けられていた。
「おうか、また虐められててたのか?」
「うん・・・」
「まったく、こんなにしてやられて・・・お前はドラゴンなんだからもう少ししっかりしろ。」
「そうだよね・・・わたし、やられてばっかりじゃダメだよね・・・・・」
桜華はしばらく項垂れていたが、すぐに何かを決意した様な顔になった。
「分かった!わたし、あいつらに負けないくらい強くなる!」
「よし!それで良いんだ!これからあいつらをやっつけられるくらいに強くなるんだぞ!」
「うん!約束するよ!」
公園の広場で、二人の子供ながらの厚い誓いが立てられた。
そして、時は流れて10年後。ある学園にて。
「廊下は走らない下さい!」
「あっ、すいません!」
腕に風紀委員の腕章を付けた卸地が廊下を走っているアルプを注意している。
彼は高校一年生にしてその手腕を買われ風紀委員長となり、学園内の悪事や校則違反を取り締まることで秩序や安全を守る存在となっていた。
「委員長、お疲れ様です。」
「そっちの方もご苦労様。いつも通り食堂の方の見回りは任せて。図書室の見回り、気をつけるんだよ。」
「了解しました。委員長の方もお気をつけて。」
副委員長のアヌビスと別れ、卸地は食堂へと向かった。
この食堂は多くの生徒たちの憩いの場であると同時に、マナー違反やカツアゲ、喧嘩などの事件も多い危険地帯である。
生徒たちでごった返している中、卸地たちが見回りをしているとある席の一角を三人組のガラの悪い男子生徒が占拠しているのが見えた。一人が机に足を投げ出してタバコを吸おうとしている。
「そこの貴方達!座席はルールを守って使用しなさい!それと未成年の喫煙は禁じられています!」
「ギャハハハハ!おい見ろよ!お子様風紀委員長様が何やらお説教してるぜぇ!」
「はいはい、すいませーん。ごめんなさーい。」
卸地の背は男子の平均よりも遥かに低く、160cmにも満たないためたまに子供扱いされたり馬鹿にされることもある。
ただ、そうとはいえ他人の見た目を嘲るこの不良達の人格は少なくともマトモではないだろう。
「とにかく、ルールを守れない場合は強制的に退出させて頂きます!」
「面白ぇなぁこのガキが。やれるもんならやってみろや!」
不良の一人が立ち上がって卸地に殴り掛かる。
だが、子供の頃から合気道を習っていた彼に卸地には余裕で避けられるもので避けようと身構えるが、拳が飛んでくることは無かった。
「・・・!?」
卸地が呆気に取られて目の前を見てみると、見覚えのあるあの背中が立ち塞がっていた。
桜色の鱗に覆われた翼と尻尾のある、あの背中が。
自分よりも小さかったのに、今では一回りも大きくなったあの背中が。
「桜華・・・ちゃ
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