Bossbattle:03 ホールイン・ワン〜天誅の一振り〜 後編

 「助けてぇーーーーーーー!ママァーーーーーーーーーッ!」
 「ひぃぃぃぃぃーーーーーー!化け物だぁぁぁぁぁーーーーー!」

 ズダダダダダダダッ!

 一方その頃、山岡と腰巾着二人は逃げ出していた。
 金塊や宝石、高級酒、ゴルフクラブのコレクション、上玉の女…
 それらの大切な物がある城を置いて王国の門へと全力疾走していた。
 
 「ま、待て!お前ら!上司である俺を見捨てて逃げようとするなんてお前ら社会人か!」
 「ヘッ!前々からテメェは気に食わなかったんだ!前の世界でもそうだったが、いっつもいっつも偉そうにしやがって!」
 「良い酒飲ましてもらったり、女抱かして貰えるからまだテメェの理不尽な命令には耐えてたし、頭ヘコヘコ下げてたんだよ!」

 腰巾着二人は、ここぞとばかりに全力で山岡に手の平を返しまくっていた。

 「ゴルフクラブだとか時計褒めんのだって、あんなもん口先だけの世辞に決まってんだろーが!」
 「独身、ハゲ、デブ、自己中…んな魅力の無い人間なんて誰が尊敬するかバーカ!」
 「な、なんだと貴様ら!平社員のくせに!ク、クビだっ!即刻クビにしてやるぅぅぅぅぅぅ!」

 会社の関係をまだ引きずっている彼らしい罵倒を浴びせながら、山岡は息を切らしながら二人の後を追う。

 「ハァ…ハァ…あばよ!これで俺達は自由…」

 バガゴォンッ!

 取り巻き(A)は嘲笑の笑みを浮かべながら、王国の門を潜り抜けようとすると、凄まじい轟音と共に巨大な影が三人の前に立ち塞がった。
三人の前に現れたのは身長3mはあろうかという巨体のリッチであった。
 ローブの下にはビキニアーマーを着ており、右手には十字架(魔物娘図鑑のリッチの図鑑絵の背中についてるアレ) を得物の様に持っている。
 彼女の名はブトゥリ。
 大魔術師フィニシアの弟子にして、魔王軍第13番部隊の隊長だ。
知性派種族のリッチにしては珍しく、とにかく頭を使う事が大嫌いで、体格から繰り出される力任せな戦闘を得意とする。

 「おっと、てめぇらクソッタレ共をそう簡単に逃がしてたまるかってんだ!」
 「ヒイッ!」

 三人を追っていたのは彼女で、転移魔法で玉座の間に殴り込みをかけ、斬りかかってきた腰巾着二人の剣を十字架の一振りでへし折り、山岡のウルティマ・クラブも炎魔法で溶かしてしまった。
 そして、武器を失い戦意を喪失して逃げ出した三人を追いかけ、今に至るという訳だ。

 「た、頼む…命だけは助けてくれ…」
 「今までアイツに脅されて無理矢理従わされてたんだ…」
 「ふーん、その割には随分とノリノリで命令聞いてたっぽいけど?」

 ヴヴゥン…

 ブトゥリは豊満な胸の谷間から、真球に加工された水晶を取り出し、三人の目線の高さで浮かせる。
 そこには、酒の席で下品な笑い声を上げる山岡と腰巾着二人が映っていた。

 「「いやー!課長!流石ですなぁ!女狩りなんて!」」
 「「どうせ農民共には税金を払う能力なんてねぇんだ。そこでだ、優しい俺達は税の代わりに良い女を寄越せば税の額を減らしてやることにしたのさ。」」
 「「なるほど!それは画期的なシステムですねぇ!」」
 「「そうだろ?そこでだ、お前ら。この法律のPRがてらに近くの村でこれを実践して来い。俺が好みの女以外の女はお前らの好きにしていいぞ。」」
 「「わっかりましたー!了解でぇ〜す!流石課長!太っ腹〜!」」
 「「ワハハハハ…」」

 ブツッ

 「あ、あぁぁ…」
 「こいつは4日前、俺の部下が潜入調査の時に拾ってきたモンだ。最初聞いたときはとてもじゃねぇが腸が煮えくり返り、今すぐてめぇらをぶん殴ってやりたくて仕方が無かった。けどよ、今はこうして直接手を下せる状況だ。全力でぶちのめしてやるぜ。」

 ブトゥリは怒りを押し殺しながら水晶を魔法で引き寄せ懐に仕舞い、十字架を振り上げる。
 

 ブゥン……

 野球でバットを振る要領で、三人に十字架が振るわれる。

 「…………!」

 三人の目からは、十字架は止まって見えた。
 だがしかし、避けようとすることはできない。
 一刻、こく一刻と迫る恐怖に心を支配されていたからだ。

 バギィンッ!

 「びゃぎゃああああああああああああーーーーーーーーっ!」

 十字架に打ち上げられた三人は汚い悲鳴を上げ、空の彼方へ消え去った。

 「さぁて、これで俺の仕事はお終いか。師匠に報告だな。」

 ブトゥリは再び水晶を取り出すと、それに強く念じた。
 
 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 「……ん。」

 一方ここはフィニシアと川崎達のいる屋敷。
 フィニシアは携帯水晶の振動に気付き、取り出した。
 水晶からはしばらく雑音が聞こえていたが、次第にそれは治まっていく。

 ヴンッ
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