ゴルフを鑑賞したり、見ている人には分かるだろうか。
ホールイン・ワンを決めた時の爽快感が。
甲高い音を立てて飛んで行くボールが、吸い込まれるかのようにカップへと消えていくのを見る爽快感が。
一振りで遠くへ吹っ飛んでいくのを見る爽快感が。
ボールを悪党に変えたならば、その爽快感はさらに増すだろう。
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「おい!何やっているんだ!とっとと酒を持ってこい!」
「す、すいませんっ!」
辺り一面に広がる青い芝生。
ここはかつて広大な森であったが、ある一人の男、茶色い背広を着た中年のサラリーマンの命令により草原に変えられてしまった。
その男は「山岡正男(やまおか まさお)」。
かつては大手企業に勤める一課の課長だったが、いつものように仕事を(部下に丸投げ)していると、突如課内が光に包まれ、彼は部下と共に図鑑世界へと召喚されてしまった。
彼を召喚したのは全身を黒いローブで覆った黒づくめの男で、男が言うには「この世界は魔物の脅威にさらされており、奴等を打ち倒す英雄が必要だ」という理由だ。
山岡は部下を引き連れ、黒づくめの男から与えられた宝具「ウルティマ・クラブ」、金色のゴルフクラブを手にして反魔物の小国を襲っていた魔王軍を蹴散らした。
これに感謝した小国の王は彼に「欲しいものは何でもやろう」とのたまったのだが、それがいけなかった。
横暴な山岡は「王国」を明け渡すように国王に言ってきた。
これには流石の国王も無理だと応じるが、彼にウルティマ・クラブで玉座の一番上の宝石を破壊されると真っ青になって二つ返事でこの取引を承認した。
王権は王族から山岡とその二人の腰巾着に取って代わられ、悪政が続いた。
重い税、理不尽な法律、毎日捧げなければならない貢物…
最初は国民もそれに怒り、抵抗運動をしてきたが、ウルティマ・クラブの力によって強化魔法を掛けられた兵士たちにこくごとく鎮圧された。
さらに山岡の悪行はこれだけではない。
彼は大のゴルフ好きで、景観が良いという理由で国民の生活に関わっている森林や湖を自分専用のゴルフ場に変えてしまった。
当然、国王の所有物となった土地にただの平民は入れるわけもなく、彼らの生活はさらに困窮した。
そんな状況などお構いなしに、山岡は今日もゴルフに興じていた。
腰巾着たちと共に試合結果を見てゲラゲラ笑い合い、部下には酒や料理、ゴルフ用品などを運ばせる雑用をやらせている。
タッタッタッタ…
「山岡さん!お酒持ってきました!」
童顔で背の低い社員が、ヘトヘトになって高級酒の乗った盆を持ってきた。
「川崎!遅ぇんだよ!てめぇは下っ端の中で一番若いんだからもっと早く持って来れるだろうが!」
「そうだそうだ!お前みたいな何やってもダメなウスノロを拾ってやった課長に感謝する意思はねぇのか!」
「会社に居た時もそうだが感謝の気持ちが足りねぇんだよ!」
山岡と腰巾着二人は川崎に対してギャアギャア罵声を浴びせる。
「ははは…すいません…」
川崎は愛想笑いをすると、盆を白墨で作られたテーブルの上に置く。
「次遅れたら給料は払わねぇからな!覚えとけ!」
「はい…」
急な雑用を終えて、せっかく注文を持ってきたのにも関わらず怒鳴り散らされたことは川崎の精神に相当応えたようで、力ない足取りで雑務員の休憩所へと向かう。
休憩所はボロボロな掘っ立て小屋で、その中にはくたびれた顔の山岡の部下が数人いた。
かつての彼らなら山岡や腰巾着にイビられても、家に帰って疲れを癒すことができていた。
しかし、今となってしまってはその帰る家も無く、こうして粗末な掘っ立て小屋で身を寄せ合うしかないのだ。
「川崎、お前…いつもいつも山岡の野郎にこき使われ続けて…辛いよな…」
「前の世界でも、今の世界でも…こんなに頑張ってるのにどうして川崎君は報われないのかしら…」
「みんながそう気に掛けることじゃないよ。だいたいこうなっているのも全部トロい僕が悪いんだ。」
最初は前の世界で普段から特段とイビられている川崎を見ても、何とも思わず、むしろ出来の悪い彼に非があると考え、見下していた彼らだったが、こちらの世界に来てからは、雑用を通じて彼の痛みを思い知り、お互いに励まし合う関係になっていた。
「ったく、結局この世界でも不公平さは相変わらずか…」
「なんで山岡の野郎といい、係長のゴマスリみたいなやつが良い思いしてんだが…」
「おうおう、お前ら。こんな暗い雰囲気じゃふさわしかねぇだろう!」
「そうだったわね!今日はアレよ!アレ!」
一人の体格のいい社員が掘っ立て小屋の隅から木箱を持ってきた。
中を開けると、粗末
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