奇界 No.02 リピスラズラ台地

 昔々、あるところに一つの国がありました。
 その国は貧しいながらも王や民たちは暖かい心の持ち主で、皆が助け合って生きています。
 ある日、彼らが真面目に頑張って働いている姿を見た神様が王様の前に現れてこう言ました。

 「お前とお前の国の者達は、苦しい思いをしながらも、めげすに生きている。なんと素晴らしいことか。褒美として、私から良い物をくれてやろう。」

 神様は王様に、一つの大きな袋を渡しました。

 「これは魔法の石の種だ。畑に蒔いておくと、一晩で実が成る程大きくなる。実の中には魔法の石がぎっしり詰まっておって、それは万病に効く薬にもなるし、鋼に練り混めば強い剣や鎧ができて、高く売れる宝石にもなる。」
 「そんなに良いものを、ワシに下さるのですか。」
 「そうだ。だがしかし、一つだけ約束がある。まず、石を使った物を作る時は、必ずこの国の者達の手で作ること。もう一つ、人に対する思いやりと優しさを忘れないことだ。」

 神様は王様と国の民たちにそう言うと、天へ帰っていきました。
 種を貰った王様は、さっそく国の民に種を蒔かせました。
 種はすくすくと育ち、次の日には実を付けています。
 その実の中を割ってみると、青い宝石が詰まっていました。
 これが、魔法の石でした。
 国の民たちは、神様に言われた通りに魔法の石を砕いて飲むと、どんな病人もたちまち元気になり、鋼に練り込めば、ドラゴンの鱗ですら切り裂く強い剣とバフォメットの魔法ですら効かない頑丈な鎧ができ、行商人に売ればたくさんのお金を貰えました。
 これには王様と国の民達は大喜びです。
 そして、魔法の石のお陰で国はとても大きく豊かになりました。
 しかし、王様や国の民達は、皆と仲良く暮らすことよりも、魔法の石で国を豊かにすることしか考えていませんでした。
 近くの小さくて弱い国を滅ぼし、そこの人達を奴隷にして、魔法の石とそれからできるものを作らせ、自分達は遊んで暮らすようになったのです。
 それを見た神様は大変怒り、王様の前に現れました。
 その時、王様は、家来達と一緒に宴会を開いて呑気に笑っています。

 「おお、神ではないか。久しぶりじゃのう。」
 「お前はあの時の約束を破ったな。」
 「約束?そんなものをワシはしたのか?」
 「ああ、確かにしたぞ。だがしかし、お前はそれを破った。私を裏切ったのだ。」
 「裏切る?ほっほっほ、何を馬鹿な事を言っておるんじゃ?それよりも、魔法の石の種が無くなりそうで困っておる。早く種を寄越せ。」

 王様のあまりにも乱暴な態度に、神様はとても怒りました。

 「ええい!そんなに魔法の石が欲しければ、お前達がなってしまえ!」

 怒り狂った神様が呪文を唱えると、王様と家来達、その場にいた芸人、踊り子は魔法の石に変わってしまいました。
 しかし、神様の怒りは治まらず、お城も、国の民達も、国に生えている草や木、牛や馬、地面まで、国をまるごと魔法の石に変えてしまったのです。
 魔法の石に変えられてしまったこの国は、二度と元に戻ることはなかったそうな。

  〜親魔国ゴンサクリ帝国に伝わる御伽話〜

 青、青、青…
 地面、そこから生えている結晶、草木…全てが真っ青だ。
 冷涼な高地に位置する親魔国、ゴンサクリ帝国。
 この国に存在する奇界「リピスラズラ台地」は、土壌から鉱物、そこに自生している植物まで青い。
 そのことから、ある国の王の横暴に怒った神が、王を王国と丸ごと青い宝石に変えてしまったものがここのルーツだという御伽話も生まれている。
 リピスラズラ台地の土壌には謎の青い物質が存在しており、この土地にあるものが青い色をしているのもそれの影響だ。
 この物質だが、魔力を吸収して特殊な養分やミネラルに変える性質があり、そのお陰で多くの魔物がいるゴンサクリ帝国の隣に存在しても土地が魔界化しないのである。
 また、リピスラズラ台地には何故か魔界でしか生育しない植物と、魔界では生育できない植物が同時に生えているのだが、これも青い物質によるものだろう。
 とにかく、ここは特別な環境だ。
 独特な進化を遂げた生物や魔物が多く生息しているため、観光客や研究機関の調査員といった多くの者が訪れている。
 そして、それらの次に多いのが冒険者だ。
 ここは良質な宝石や薬草が多く採れるため、駆け出しの冒険者からプロまで幅広い層に依頼が舞い込んでくることが多いのである。

 「お兄ちゃん、あった?」
 「うーん…なかなかないなー…」

 深い青色の岩壁にツルハシを振るう二人の少年。
 この二人は見習い冒険者の兄弟で、活発そうな筋肉質の方が兄「ソロ」、気弱で中性的な雰囲気の方が弟「ルーブ」。
 宝石の納品依頼を受けた二人は、この時いつもよりマジメに作業に打ち込んでい
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33