誰にでも得意不得意はあり、もちろん魔物にだってそれはある。
中には本来その種族が得意としている筈の事が不得意な者も居る。
男を誘惑するのが下手なサキュバス、
編み物ができないアラクネ、計算ができない刑部狸。
だが、それらを逆手に取れば短所も長所になって本来の長所を超える実力を発揮するかもしれないのだ。
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ここは、とある親魔物領の小さな町の外れにある空き地。
そこへ、一人の少女が入ってきた。
手は青い羽が生えた鳥の翼で、足も紫の鱗に覆われた鳥の足だ。
彼女の名前はウタヒメ。
半人半鳥のハーピーという種族の中のセイレーンという種族で、魔物の中でも郡を抜いて歌が上手いことで有名だ。
そんなウタヒメは、この空き地で前から付き合っている恋人に結婚を申し込む歌を歌う練習をしに来たのだ。
ここは町の一番隅のほうにあり、比較的民家なども少ないので迷惑がかからないので彼女はこの場所を選んだのだ。
「すうっ・・・」
ウタヒメが息を大きく吸い込み、腹に力を込めて恋人へのメロディーを歌う。
「きみいぃぃぃぃのおおおぉぉぉぉぉこぉぉぉぉとぉぉぉぉがぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!こどもぉぉぉおおぉのこぉろぉかあぁぁらぁぁあだぁいぃぃぃすぅぅぅきいぃぃでぇしィたあァあアあアアアア〜〜〜〜!!!!」
可憐な少女の口から出てきたのは誰もを魅了するような綺麗な声で歌われるラブセレナーデではなく、凄まじく音痴な不和共音であった。
声の大きさは旧魔王時代の姿になったドラゴンの吠え声を上回り、響きは金属を乱暴に叩きまくっているようで、常人が聴いたら頭が弾け飛んでそこら中に脳みそを撒き散らしてしまいそうなシロモノである。
もう既に近くの木に生えている葉っぱが振動で落ち、空き地に捨てられたマーメイドの石の彫刻にもヒビが入っている。
「だからぁアァァァァァ!わたァしィとぉけっこおおおおおおおおおおおんしてええええええええくださあああああああいいいいい!!!!」
ウタヒメがキメポーズをした正面には散らばる葉っぱと根本から折れた木、完全に粉々になった石像、仲間とかくれんぼをしている時に歌を聴いてしまって草むらから上半身を出して白目を向いて倒れている近所のガキ大将。
「・・・。はぁ・・・。私って何でこんなに音痴なんだろう・・・。」
ウタヒメはガキ大将を抱き抱えて、町の病院まで連れて行った。(この町でウタヒメの歌の被害に遭った住人の診療費はタダになる。)
「おーい!ウタヒメー!」
ウタヒメが町の中をうつ向いて歩いていると後ろの青年から声がかかる。
「ダイゴっ!」
ウタヒメがダイゴと呼んだ青年の元に駆け寄る。
彼はウタヒメの幼馴染でもあり、彼女の一番の理解者でもある。
「また歌の練習していたのか?」
「う、うん・・・。」
「遠くにある俺が働いている店まで聞こえてくるけど、相変わらず何度聞いてもヘタな歌だなぁ!」
「そ、そうだよね・・・」
「だけど日に日に上手くなっているのがよく分かるし、歌詞は遠くにいるからはっきりとは分からないけどウタヒメが頑張っているのが良く伝わってきていていい歌だぞ!」
恋人からそう言われて、ウタヒメはドキッとしてしまう。
「あ、ありがとうっ!」
ウタヒメは自分の歌がダイゴに聞かれていたと分かると、恥ずかしくなって顔を赤くする。
「どうかしたのか?」
「なっ、なんでもないって!それよりもこの後からバイトあるんでしょ?遅刻しちゃうって!」
「分かってるよ。それよりもお前に話があるから、今日の夜の7時に噴水まで来てくれないか?」
ウタヒメは想い人からの意外な申し出に期待と緊張で固まってしまう。
「別にいいけど?」
「そうかい。じゃ、これからバイト行ってくるんでまた7時に会おうなっ!」
「う、うん!」
駆け足で去っていったダイゴの姿が完全に消えるまで見送ると家まで戻って行った。
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「確かダイゴはここで待ってろって言っていたな。あたしに話って一体何だろう?」
午後7時。町の中央の噴水。
リリムの双子を象ったこの噴水は町の住民がよく待ち合わせの目印に利用していおり、町のシンボルの一つでもある。
「ウタヒメー!待ったかー?」
やや焦った様子でダイゴがウタヒメの元に駆けつけてきた。
「別に?今来たばっかりだよ?それで話って何?」
「うん、まず一つ目だ。お前に渡したいもんがある。」
「なっ、何?」
ダイゴが上着の内ポケットから小さな箱を取り出して、ウタヒメの前にひざまづいて開いて見せる。
中には、ダイヤモンドが付いた銀色の指輪が入っていた。
「こ、これって・・・!」
「ウタヒメ、俺と結婚してくれ。安心しろ。お前の両親とはちゃんと話を付けてきた。」
ダイゴは自信に満ち溢れた、何か
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