「思っていたのと違う!」
物事が想像通りに行き、人の予想が必ず当たるとは限らない。
それは、魔物娘も同じ。
全てのドラゴンが強欲で傲慢で人を見下している者しかいないことなどない。
全てのオーガが知能が低く粗暴な者しかいないことなどない。
全てのサキュバスが好色で色狂いな者しかいないことなどない。
全ての魔物娘が多くの人々が思い描くようなイメージ通りの性格や容姿をしている者しか居ないということなどあり得ないのである。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
セイカーン国立公園。
熱帯雨林気候に属し、湿度と気温がえげつないほど高く、敷地面積の90%以上がジャングルに覆われている。
「本当にここにいるのか・・・?」
そんなセイカーン国立公園のジャングルの中で一人の青年が、巨大なリュックサックを背負って歩いていた。
彼の名はタイガザ・グレイト。
そこそこ名前の売れている冒険家である。
彼は魔物娘の人虎というトラの魔物娘が大好きで、いつか人虎を妻に迎えるために霧の大陸へ行きたいという思いで必死に勉強して大学を卒業し、彼女らに強い男と認めて貰うために体もとことん鍛えた。
そして、探検家の仕事で得た資金で念願の霧の大陸へ行き人虎を探しに行ったはいいが、何年経っても全く見つけられずにいた。
そんな中、霧の大陸の隣にある天竺(てんじく)という国のセイカーン国立公園のジャングルに人虎らしき魔物娘が目撃されたという情報を聞きつけてここまで来たのだ。
「うーん・・・魔物が好みそうな巣穴も見当たらないな・・・」
タイガザは周囲を見渡すが、辺り一面木や草たけの高い草ばかりである。
「何日も歩きっぱなしだと疲れるなぁ・・・」
タイガザは霧の大陸から天竺、そして現在いるセイカーン国立公園のジャングルまで移動し続けていたためかなり疲労していた。
「んっ?」
疲れ果てたタイガザの目の前に苔むした小さな祠が現れた。
扉にはトラとサイとゾウの彫刻があしらわれ、屋根からはツタがぶら下がり、壁にはツタがびっしり張り付いていた。どれも良質な石でできている。
「すごい・・・こんな遺跡があるなんて・・・」
タイガザは祠の風格に心を奪われて立ち尽くしていたが、すぐに自我を取り戻した。
「俺自身も疲れている上に雨も降りそうだから、この遺跡の中で休ませてもらうとするか。」
タイガザは祠の扉を開け、中に入る。
「中は思ったより不自然といっていいほどすごく綺麗だな。」
祠の中はややボロボロな外観とは違い、掃除でもされているかのように綺麗だった。床には独特な紋様の絨毯が敷かれている。
「よいせっ、と。それじゃここで、いただきま・・・」
「よ〜し、今日は大猟や〜!」
タイガザが腰を下ろし、天竺の屋台で昼食として買った肉の串焼きを口に頬張ろうとすると物音がして、それに続いて後ろから若い女の声がした。
「誰だっ!」
タイガザは声の主に驚いて後ろを向いた。
そこにはなんと、長年探し求めていた人虎がいたのである!
ただ、図鑑で見たものと違い、身に付けているのは金属の鎧ではなくど派手な布でできたローブのような服だった。現実で言うならインド人の女性が身に付けているサリーがそれに近いだろう。
「・・・・・・!」
「どうしたんや?」
「本当に・・・!本当にいたんだ・・・!」
タイガザは、片手に緑色の毛皮の立派な鹿を担いでいる彼女を見た途端、涙を流して感激した。
長年自分が追い求めていた存在とやっと会えたのだから当然だろう。
「なんやあんさん、人の家に上がり込んで涙流すなんておかしいヤツやの。」
「えっ、これはすいません!貴方のお宅でしたか、今すぐ出ていきますので」
「まぁまぁゆっくりしてきいや〜、ん?」
人虎は慌てるタイガザをなだめようとしたが、それよりも先に彼が手に持っている串焼きに目が行った。
「お〜!それウチも好きなんですわ〜!いいよの〜!タレの味とか特に〜」
「え、えぇ・・・」
串焼きを見た途端に目を輝かせ、担いでいたシカを部屋の片隅に放り、串焼きに関するウンチクや歴史などをやかましく語り出した。
「この人・・・俺の知っている人虎のイメージと全然違うな・・・」
タイガザは、人虎に対して高潔で礼儀を重んじる孤高の武人というイメージを持っていたが、彼の目の前の彼女はそれとはほど遠いキャラであった。
誰とでも仲良くなれそうなフレンドリーな雰囲気でやかましいと言っていいほどよく笑いよく喋り、所々下品な仕草をしたりする。
目の前にいるこれは本当に人虎なのだろうか・・・?彼がそんな疑問を浮かべていると、
ポロッ ベチャッ
「あっ!」
突如タイガザの手から串焼きが落ちてしまった!
「す、すいませ・・・」
「あぁ〜!もったいないやんけ〜!」
人虎は耳を塞いでしまう
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