魔物討伐隊、始動! 〜Human Side〜

「す、すみません……」

ボーイさん達に床を拭いてもらっている間にも、親父と記者達の質疑応答は続いていた。

『昌道さんが、討伐隊の隊長になってK県から魔物を追い払うというわけですね?』
『そうでございます! 言うまでもありませんが、自分の息子だからという理由で昌道を隊長に選んだのではありません。K県内で最も隊長にふさわしい人材を探した結果が、たまたまそうなっただけのことでございます』
『失礼ですが、昌道さんには魔物と戦う力があるのでしょうか?』
『昌道は米の国に留学中、地下格闘技のチャンピオンになっております。魔物も軽くひねるでしょう』

チャンピオンをやっていたのは事実だが、“地下格闘技”の“地下”って“マイナー”って意味だぞ親父よ。
大体、素手の格闘技で魔物をどうにかできるはずがない、魔物がそんな簡単な相手なら、駒川さんや九字君がああも易々とは負けていないだろう。

『昌道さんにお話を伺いたいと思いますが、昌道さんは今どちらに?』
『昌道は今ここにはおりません。討伐隊の人員確保のためにK県武道連盟、およびK県主神教会と接触しております。近いうちに本人から会見があるでしょう』
「!?」

勝永や時定と会ってるって、何で親父が知ってるんだよ!? 背中に汗がにじんだ。感じる2人の視線が痛い。

食事が終わり、ボーイさん達が退出すると、勝永が俺の肩に、ガッ、と手をかけてきた。

「昌道ぃ……」
「はい……」
「他人の討ち入りは止めておいて、自分は親の七光りで討伐隊の隊長様か? いい身分だなオイ」

俺は慌てて弁解した。

「違う違う! あれは親父が勝手に言ってるだけ!! 俺は何も聞いてないから!!」
「そうか? 親父さん、昌道が俺達と会ってるのを知ってたみたいだが……」
「それはなんでか分からないけど……とにかくさっきも言った通り、今の段階でこっちからT市やN町に打って出るつもりはないから。今夜にでも親父を説得して、討伐隊はやめてもらう」
「いや、しかし……」

時定が口を挟んだ。

「親父さんが本当に昌道の知らないところで討伐隊の件を進めてたんだったら、今更説得しても聞く耳持たないんじゃないかな……? 隊長になるのだけは断れるかも知れないが……」
「それは何とも言えないけど……とにかく2人とも、まだ討伐隊には応募しないでくれ。武道連盟や主神教会の人達も、なるべく応募させないでほしい」
「分かった……K県主神教会は討伐隊への参加を検討中ということで様子を見よう。それでいいよな?」
「ああ……勝永も頼む」
「……いいだろう。K県武道連盟もとりあえず言う通りにしてやる。だが昌道、もし討伐隊の隊長になるんだったら、必ず俺達も招集しろよ。抜け駆けをしたら……斬る!」
「はいぃ……」



…………………………………………………………………………………………………………



「何考えてるんですかッ!!!」

午後、市役所に戻り、報告のために市長室に向かうと稲生さんが待ち構えていた。そして大喝一声。

「い、稲生さん、廊下で大声は……」
「これが大声を出さずにいられますか! 私言いましたよね? T市に行っちゃ駄目だって。増して討伐隊なんか連れて行ったら、100パーセント魔物に食べられちゃいますよ!」
「違うんだ。聞いてくれ……」

弁解しようとしたところで、市長室から市長が顔を出した。

「昌道坊ちゃま、今お戻りに?」
「ええ……」

そのまま俺達は市長室に移動した。そして、勝永や時定にしたのと同じ説明をもう一度2人に繰り返す。

「ふーん。つまり、お父様が勝手に決めただけで、昌道さんは何も聞いていないんですね?」
「そ、そうだよ」
「市長、県知事とは言え市の助役を勝手に何かに任命する権限はありませんよね?」
「え? ああ……法的にはそうだが……」
「良かった。それなら今ここでお断りの電話をしましょう」

そう言うと、稲生さんは市長の席にある電話を勝手に取って番号をプッシュした。

「あ、もしもし。県庁ですか? こちらK市役所です。市長が魔物討伐隊隊長の件で県知事にガツンと物申したいと……」
「「わああ!!」」

俺は慌てて稲生さんから受話器を取り上げ、「失礼しました。何でもありません!」と言って電話を切った。

「昌道さん、何をするんですか!?」
「まあまあ稲生さん、落ち着いて……」

稲生さんを宥める俺。市長が親父の意向に逆らえるわけがないのだ。それができるなら、そもそも俺が助役になってないし。
俺は2人に言った。

「討伐隊の隊長を引き受けるつもりはありません。とは言え、隊長を他の人に代えてもらうだけじゃ意味がない。討伐隊自体を取りやめにしてもらわないと。今夜親父、いや県知事と話してみます」
「よしよし。それでいいんですよ。昌道さん
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