「ママ、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないの?」
ある日の朝。
朝食を食べてるシェリーが、言った。
「シェリー・・・だからそんなお義母さんを無下にするような言い方は・・・」
フォンが眉をひそめながら言う。
ちなみに、『お義母さん』はもちろん、リディアのことである。
「違うのよ、フォン。ママの仕事的な意味でよ」
「お義母さんのお仕事?」
フォンが首を傾げると、パンを飲み込んだリディアがぽん、と手を叩いた。
「あー、あー。そういやそろそろ一ヶ月近いかね?アタシがここに来て」
「そうよママ。診療所ほっぽり出したまんまでいいの?」
「診療所?え、お義母さん、お医者さんなんですか!?」
フォンがびっくりすると、リディアもシェリーも「あれっ?」と首を傾げた。
「坊や、知らなかったのかい?」
「あ、はい」
「あれ?パパがいずれ話しとくって言ってたのに・・・忘れてたのかな?ま。いいや。あのね、フォン。ママはね、ラティクルじゃ有名な外科医なのよ?美人で優しくて丁寧で腕がいいって」
「よしな、シェリー。親の自慢なんかするんじゃないよ」
と、言いつつも嬉しいのか頬を染めて頭を掻くリディア。
「・・・優しいはちょと疑問だけどね・・・」
「なんか言ったかい、シェリー」
「なんにも言ってないわよママ」
ギロリと両目&無数の蛇の目でリディアが睨むと、シェリーは目をそむけて言った。
「ま、シェリー。安心しな。診療所のことは気にしなくていいからさ」
「・・・なんでよ?」
次のリディアの言葉に、シェリーはパンを、フォンはフォークを落とした。
「だって明日、あさってあたり、診療所がこっちに移転してくるんだから」
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「あ、どうもこんにちわー!」
「こんにちわ。どう?進み具合は?」
「医療器具運び出しも終わりました。あとは内装の支持をお願いします」
「早いわねぇ。さすがアント引越しセンターね!」
「あはは、リディアさん、褒めても何も出ませんよー?」
「・・・・・・」(ポカーン)
「・・・・・・」(ポカーン)
シェリー、フォン、親方。
三人がリディアに連れていかれたのは、とある空き店舗。
いや、『元』空き店舗だった。
そこは今、運び出したダンボールを開けたり、机やらなんやらを言われた位置に運ぶジャイアントアントたちでごった返していた。
「看板の位置はあれでいいですか?」
「えぇ、大丈夫。見えやすいわ」
その看板には・・・
『リディア外科診療所』
・・・と、書かれていた。
「・・・ま、ママ?これは一体どういう・・・?」
「ん?決まってんじゃない。あんたとフォン坊やが心配でしょうがないから、こっちで面倒見れるよう、診療所を移転したのよ?」
リディアが言うと、シェリーがずっこけ、フォンは苦笑いをした。
「? どうしたの?」
「どうしたの、じゃないよママ!勝手すぎんでしょ!?ラティクルのお客さんたちはどうすんのさ!?」
「わざわざアタシのとこ来ることないじゃない。アタシより腕のいい医者はゴロゴロいるって」
「なんていうかもうママは時々周りを見ないというか自分勝手というか・・・」
はぁ、とため息を吐くシェリーの後ろで、親方が何度もガッツポーズしていた。
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「それじゃ、ありがどうございました!またアント引越しセンターをご利用ください!」
「はい。ありがとうね」
夕方。色々と家具やら器具やらの位置の微調整をして終え、アント引越しセンターが帰るのを、4人は見送った。
「いやー。よかったよかった。無事に終わって」
「もう、ママったら・・・さ、フォン。帰ろ?」
「あ、うん」
帰ろうとするふたりを、リディアが引き止めた。
「ちょいと待った。ボウヤ、あんたが新診療所の患者第一号だよ。そら、入りな!」
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「・・・ふーむ・・・」
診療所、診察室。
リディアがフォンの瞼を無理やり開けながら診ていた。
「ど、どう、ママ?」
おそるおそる、リディアにシェリーが尋ねた。リディアはフォンの瞼から指を離すと、頭を抱えてしまった。
「・・・やっぱり、難しいねぇ・・・子供の頃切っちまったせいで、角膜やらレンズやらが切れたまんま眼球が成長してるっぽいね。網膜が傷ついてないから死にはしないんだろうけど・・・角膜は取っ替えられるかもしんないけど、レンズはねぇ・・・もし治せるとしたら、眼球丸ごと取っ替えなきゃ・・・」
「っ!なら、私の目を移植してよ!」
シェリーが言ったが、リディアは首を振った。
「無理。あんたと私はメドゥーサだよ?目には『石化魔法』が使
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