とあるバフォメットの素晴らしいお兄様


ー現代、日本ー
ーサバト日本支部ー


「『ギーヤ』様ぁ!私にもお兄様ができましたー♪」


一人の魔女が扉を開けて開口一番、おそらくこの支部を取り仕切っているであろう、書斎卓に座るバフォメットに超ご機嫌な声で言った。
ちなみに側にはふたりの魔女たちがいたが、ふたりともパッと顔を明るくして拍手をした。

「おぉ!おめでとう。長い間悩んでいたが、ようやくお前もか。しっかりお兄様殿を幸せにするのじゃぞ?」

「もちろんですよ、ギーヤ様!これからまぁ〜いにち甘えて甘えて、お兄様を悦ばせますぅ♪もちろん、性的な意味でも。きゃっ♪」

もうご機嫌が有頂天でマッハな魔女は、身体をくねくねさせて視線も気にせず惚気話を始める。

まぁ、ここはサバト。周りにいた魔女は、その話を羨ましそうやら、興味深そうに聞き入る。

「これでこのサバトも8割が兄様持ちか。うんうん、よいことじゃ!」

ギーヤはうんうんと頷きながら、机の上の書類にペンを走らせていた。

「それでね、お兄様のかっこよさったらなくてね・・・」

『いいなぁ・・・』(魔女ふたり)

未だ魔女たちは惚気話に花を咲かせていた。
そろそろ止めた方がいいかなとギーヤが思った時だった。



「・・・そういえば、ギーヤ様の兄上様の話、聞いたことないですね」(ギーヤの側にいた魔女B)



『ビキィッ!』


その音に魔女たちが振り返ると、ギーヤのペンを持つ手が振るえ、ペンにはヒビが入っていた。



「・・・そ、そそそ、そうだったかのぅ・・・?」



ギーヤは汗をだらだらかきながら、あさっての方向を向いて、口元をひくひくさせていた。

「そういやそうだったね・・・ギーヤ様のお兄様の名前、『トウマ』様だっけ?」(ご機嫌マッハだった魔女A)

魔女B「そうだね。どんな方なんだろー?」(ギーヤの側にいた魔女C)

ギーヤは変わらず汗を滝のように流し、下唇を噛み締めていた。


「やっぱり、ギーヤ様のお兄様なんだから、すっごい『カッコいい』に決まってるじゃない!」(魔女C)


「・・・」


「そうよね!あ、モデルみたいに『カッコ良くてモテモテな人』を堕としたんじゃない!?」(魔女A)


「・・・・・・」


「いえいえ、日本支部を治めるギーヤ様ですわよ?カッコよくて、強くて、家事や仕事なんでもござれで・・・『パーフェクトな方』でしょう!」(魔女B)

『なるほどぉ!』



「・・・・・・・・・」



ギーヤは終始黙り込み、もう引きつり笑いのような顔をして、必死に魔女たちから視線を逸らしていた。

「・・・で。ギーヤ様、実際はどうなんです?」


「ぴっ!?」


急に声をかけられたギーヤは、びっくりして変な声をあげ、魔女たちの方へ振り向いた。

「ですから・・・」(A)
「ギーヤ様の・・・」(B)
「お兄ちゃん様は・・・」(C)

ギーヤを、期待に満ちてキラキラ光る6つの瞳が凝視した。



『どんな方ですか?』



その時、ギーヤは・・・


「・・・え、と・・・」


ヒビの入ったペンを握りしめ。


『じーーーっ』(魔女たちの眼差し)


目を潤ませて。


「・・・う」

『う?』(魔女たち)





・・・怒った。





「うるさいうるさいうるさーーーいっ!今は業務中じゃ!そんなつまらん話をする暇があったら、さっさとサバト拡大のために働かんかぁぁぁぁぁぁっ!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・・・夕方、7時。


「・・・はぁ」


ギーヤがとぼとぼと歩いていた。
サバトの仕事を終わらせると、魔女たちから逃げるように帰ったのだ。
手には『ラビットスーパー』と書かれた大きな袋があり、中には夕食の材料と思われる魚や野菜が入っていた。
ふとギーヤが辺りを見回すと、たくさんの魔物がいた。
腕を組んで歩くカップルのエルフ。
はしゃぐ子供に腕を引っ張られる父親と妻であろう、ラミア。
お揃いのマフラーをつけて歩く、ハタから見れば兄妹の、ドッペルゲンガーのカップル。


「・・・カッコいい、兄者、か」


ギーヤが自虐的に笑った。
とぼとぼと歩くギーヤが顔を上げると、目の前には高層マンションがあった。ギーヤと、『兄者』の自宅、『兼仕事場』である。

ギーヤには高すぎる位置にあるオートロックの鍵穴に鍵を差し込んで、苦労して回す。
閉じかけるエレベーターに駆け込み、ギーヤが12階のボタンを押すと音もなくエレベーターが上がる。

エレベーターが止まり、ドアが開く。
ギーヤは歩いていき、『1205』の部屋の前で止まる。

鍵を取り出し、鍵穴に刺して、回す。

『ガチャン』

「ただいまなのじゃ〜」

扉を開いて、ただいまを言う。





「・・・おがえり・・・」






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