「さて、どうしましょうか・・・」
神父のホーキスが1階のとある扉を開けると、中は長い廊下になっており、そこにまたたくさんの扉が連なっていた。ホーキスは、ゆっくり歩きながら扉に耳を当てたりして色々部屋の中を勘ぐっていた。
「どこから入りましょうか・・・ん?」
その時。ホーキスの進行方向、10mほど離れたところの扉が開いた。
『キィィィィ・・・パタン』
中から、ひとりの『シスター』が出てきた。彼女は扉から出て扉を閉めるまで、ずっと顔をホーキスから背けるようにしていたが、扉を閉めた時、チラッと一瞬、ホーキスを見た。
その目が合った瞬間、ホーキスは驚きで目を見開いた。
「・・・る、『ルシェル』!?ルシェルですか!?」
その名を叫んだ瞬間、シスターはニコリと微笑んだ。
そして、さっと身を翻し、廊下の奥へと駆け出した。
「まっ、待ちなさい!ルシェル!ルシェルなのでしょう!?」
ホーキスは彼女がルシェルという女だと確信した途端、女を追って全力で走り出した。
「ルシェル!待ってください!あのことを!あのことを謝りたいのです!ルシェル!ルシェル!」
しかし、ルシェルの足の速さはホーキスと全く同じで、ふたりの距離は全く縮まらなかった。
「ルシェル・・・ルシェル!」
そして、ルシェルと呼ばれ続けた女は、廊下の突き当たりの扉を開けて入ってしまった。
「ルシェル!!」
ホーキスは、何も疑わずに扉を開けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・はっ!?」
ホーキスは、扉を開けて入った瞬間、その歩みを止めてしまった。
中はワンルームの寝室だった。
部屋の中心にダブルベッドが置かれており、三方の壁には『逆さ十字架』がかけられている。部屋の右奥にはタンス、左右の壁にぴったり張り付くようにエンドテーブルが置かれ、それらの上には何かの香が置かれているが、煙は出ていなかった。
そして、そのベッドの前には、先ほどのシスターがいた。
「・・・る、ルシェル?」
ホーキスがおそるおそるシスターに近づこうとする。
「ダメです!近寄らないでください!」
シスターが、ホーキスに背を向けたまま叫んだ。
「・・・あ、あぁ・・・」
ホーキスは、その声を聞いた途端、ボロボロと涙を流し始めた。
「ルシェル!その声は『ルシェル・ファンダリア』でしょう!?」
「・・・」
シスターは、無言でふるふると首を振った。
「いいえ!その声は聞き間違えません!貴女はルシェル!私が・・・私が見殺しにしてしまったはずの、ルシェルでしょう!」
見殺し。そのワードを聞いた瞬間、ルシェルの肩がびくりと震えた。
「私が・・・私がまだ新米神父の頃!私はひとりではなかった。貴女とともに神の言葉を学び、ともに苦楽を味わい、ともに洗礼を受け、ともに人々に神の言葉を説いた!」
ホーキスは、ゆっくりと歩みを進め、ルシェルに近づく。
「しかし・・・貴女は魔物に襲われてしまった!私は・・・愚かな私は、貴女が目の前であの天使に化けた魔物に襲われているのを見ながら、逃げてしまったのだ!貴女の叫びを、悲鳴を、助けを求める声を、耳を塞いで聞かずに、必死こいて逃げてしまったんだ!」
ホーキスの涙は止まらない。己が過去の罪を吐露し、その懺悔を目の前の本人に求めるかのようにルシェルに語りかける。
「私は後悔した!貴女を救う試みさえしなかったことを!持っていた護身用ナイフを振ることさえしなかった自分を!私は、20年の間、貴女に赦してもらうために、人を救い、孤児を養い、魔物を滅し続けたのだ!しかし・・・まさか生きていたとは思わなかった・・・ルシェル!今一度、謝らせてくれ!ルシェル!」
ホーキスは、ルシェルを抱けるところまで近づいていって・・・
「・・・なっ!?あ、あぁ・・・」
ホーキスは、目と口を開いたまま、後ずさりをした。『見てしまった』ものが、信じられなかったからだ。
「・・・見てしまいましたね、ホーキス様」
ルシェルが振り向く。
『20年前のままの容姿の』ルシェルが、振り向いた。
『頭に魔物の角を生やした』ルシェルが、悲しい表情をしていた。
「・・・だから、だから私は、『近寄らないで』と言ったのです、ホーキス様。貴方の嫌いな魔物になってしまった、私を見られたくなかったから・・・」
ルシェル・ファンダリアは、ダークプリーストになっていたのだ。
「ルシェル・・・その、その姿は・・・」
「・・・まさに、貴方が私を見捨てた20年前、私は、ダークエンジェルに襲われました」
ルシェルは、悲しい表情のまま、ポツリポツリと話し始めた。
「あの時は怖かった・・・ダークエンジェルに捕まり、自分がなにをされるのか分
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