日常/後編

カチカチカチ・・・ボーン。ボーン。

「ん、四時か」

工房で、依頼された細かな部品を作っていた親方が、顔を上げた。
目元をつまんで押した後、席を立って、フォンのもとへ向かう。

「おぉ、今日もゴッソリ減ってるな」

フォンの机にあった分解物品の山は、すでに平らになっていた。
あと数個の機械を分解すれば、全て終わるくらいになっていた。
次の機械に取り掛かろうとするフォンの肩を、親方が叩いた。

「坊主、おつかれ。今日はもういいぜ」

「えっ、まだ時間じゃないでしょう?」

フォンを知らない人なら聞こえなかったのかと思うが、親方はやれやれと息をついた。

「坊主より俺の耳がイイってのか?ありえねぇな。下手な演技すんじゃねぇよ。金とるぞ」

「う、それは、ちょっと・・・」

「だろうが。坊主は十分働いてんだ。俺がもういいっつったら、もういいんだよ」

「うぅ・・・はい。すいません」

「いいってぇことよ。ほら、片付けな」

フォンは八時出勤、昼休みを挟んで、四時終了。昼休みも長めで、合計6時間勤務である。
もちろん親方の計らいで、他の従業員(と言っても、エドウィンと工房補佐1人だけだが)と同じ給料がでる。昼休みなんか、わざと休ませようと、12時になったあと、2時まで鳴らないように細工してある。今日は遅刻した分働こうとしたのだ。
そうでもしないと、フォンは昼休みを返上してまで働こうとするのだ。
昔、エドウィンがぽろっと、給料が同じな事を言うと、「僕は仕事が楽だから」と言って、八時から四時までぶっ続けで働いたことがある。身体に異常はなかったが、その場にいなかったメリッサが、烈火の如く怒りちらし、エドウィンと親方がそれからフォンをしっかり休ませるための細工をするようになった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ボーン。

「ガタッ!」

「落ち着け、メリッサ」

あぁ、メリッサが敏感に反応したってことは、もう四時か。ここの店番、午前に工場とかの人とか、壊れたもんの回収業者が来るとき以外は一般の人、あんまし来ないから時間の感覚がなくなる。
ほんでメリッサは四時になると敏感に反応する。まぁ、恋する乙女の勘(笑)なんだろうな。

「馬鹿兄貴!あたし」

「はいはい分かってるよ。アイツ送るんだろ。行ってこい」

「珍しく理解示してくれてありがとう!フォンにぃ〜!」

おお、速い速い。あっという間に工房に消えてく我が妹。しかし厳しいねぇ、あんだけアタックしてんのに、アイツは分かってないのかね?分かってるけど、知らんぷりしてんのか?
それとも・・・アレかねぇ?
うーん。ま、頑張れとしか言いようねぇな。

てか俺の出番、これで終わり?

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カツン、カツン。
フォンにぃの杖が石畳を叩いて音を鳴らす。
ゆっくり歩くフォンにぃを支える私の頭はもういっぱいいっぱいだった。

(いけ、言うんだ私!今日のために色々してきたじゃない!イメトレとかイメトレとかイメトレとかっ!)

今日こそ告白する。昨日、決めたことだった。

思えば、私はフォンにぃに一目惚れしていたんだろう。
まだ私が6才とかのころ、同い年の女の子と遊ばず、フォンにぃ、ついでに馬鹿兄貴と遊んでいた。
「お兄ちゃんが好きなのねぇ」
「兄妹仲がいいこと」
そんなことをよく言われた。小さい頃はそうなんだなと勘違いしてた。自分はお兄ちゃんっ子なんだなと思ってた。
自分の気持ちにはじめて気づいたのは、フォンにぃが孤児院に入るくらいの時だった。
フォンにぃに元気がない。
フォンにぃがご飯を残す。
フォンにぃの顔が暗い。

フォンにぃをどうにかしてやりたい。

その気持ちが兄貴をどうでもいいと思わせた瞬間、私は、フォンにぃが好きなんだなと分かった。
それからずっと、フォンにぃを見て、想い続けた。
パパが私を牽制し続けていたため、世話までは手がだせなかったけど・・・
でも、それも今日で終わり。
過保護なパパは仕事で遠くの街へ出張。ママは逆に応援してくれたし。
馬鹿兄貴は・・・どうでもいい。

今日、言わなきゃ、私は一生想いを告げられないかもしれないっ!

そんな決心で、今日は来たんだ!

「ふ、フォンにぃ!」

「ん?なに、メリッサ」

えーと、えーと、次は、次はっ・・・

「えええええと、あああああのね、わたわたわた、私、ね!?」

「えっと、とりあえず、落ち着いて?」

落ち着いてる!大丈夫、フォンにぃ!落ち着いてるよ!

「わた、わった、私はね!ふ、ふぉ・・・」

フォンにぃの、事がっ!

「ん?」

私!いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!


「ふぉ、フォンデュが好きなの!」

「・・・は?」

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
何言ってんの私の馬
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