『はぁ・・・』
『可愛いよ、ティエリーさん・・・』
『特に君の笑顔はとても愛しい・・・』
『でも、でも・・・』
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国家『ハーベリア』
主に農業が主流工業となっているこの国家には農家を営む魔物娘が多く、またそれによって、野菜専門販売店に売り込みにくる魔物娘も多かった。
『ティエリー・バーニィ』も、そのひとりであった。
「こんにちわー!」
元気いっぱいな声が野菜専門販売店『ベリーズ・ゲムシェハン』に響いた。
「おや、ティエリーちゃん、おはよう」
「おはようございます!おばさん!」
太陽さえまぶしがるような明るい笑顔が、彼女の売りのひとつだ。
彼女はワーラビットである。
自分の家に畑を持っており、そこで育てた野菜を、このベリーズ家の店に持ってくるのだ。彼女の野菜は味がよく、食べて健康になったように感じると人気だった。
ちなみに、彼女自体も人気のひとつである。ワーラビットの特徴に加え、ショートカットの髪が彼女のアピールポイント。さらに、本人は自覚がないのだが、そこらへんのサキュバスよりも大きいバストは男たちの視線をイヤでも引きつけてしまう。
この店の長男『アルト・ベリーズ』も、彼女の虜のひとりだ。
「じゃ、持ってきた野菜を見せとくれ」
「はい!じゃ、待たせていただいてよろしいですか?」
「もちろんだよ。あと・・・アルト!ティエリーちゃんが来てるよ!挨拶しなーっ!」
店のおばさんが上に向けて叫んだ瞬間。
『・・・ドタン、ドタン!バタン!ガタッ!ガタガタッ!バタバタバタ・・・!』
慌ただしい音が聞こえ、階段を転げ落ちるように青年が下りてきた。
「こっ、こんにちわ!ティエリーさん!」
「あ、こんにちわ!アルトさん!」
にっこりとティエリーが笑うと、アルトは顔を赤らめてはにかんだ。
「アルト。ティエリーさんとお話ししたいだろう?アタシが野菜見てる間におしゃべりしてな」
「なっ!?ちょ、母さん!?」
おばさんがからからと笑いながら店の奥に行くと、ティエリーとアルトがふたり残された。お互いの目が合うと、ふたりとも顔を紅くし、顔を伏せた。
「え、えと、てぃ、ティエリーさん!椅子!椅子どうぞ!」
「あ、ありがとう」
「えーと、えっと、お菓子かなんかあったかな・・・」
「あ、いいですよ、そんなの」
「え?そ、そうですか?えっと、あとはなにか・・・えーと・・・」
オロオロと慌てるアルトを見て、ティエリーが助け舟を出した。
「アルトさん。私とおしゃべりしてくれませんか?」
「え!?ぼ、僕とですか!?」
「うん」
にっこりとティエリーが笑うと、アルトは慌てていた表情を緩ませ、ゆっくり椅子に座った。
「あ、あはは・・・えーと、なにを話しましょう?」
「最近、街でなにかありましたか?私、あんまり頻繁に街に来ないので・・・」
「あっ!それならこの前・・・」
アルトはやっと落ち着いた感じで、ティエリーとのおしゃべりを始めた。
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「・・・そこでラドゥルがですね、思いっきり鍬を振り上げたら、刃の部分が落ちちゃって、振り下ろしたら棒だけが『とすっ』て地面に刺さっちゃったんですよ!」
「あはは!おかしいね!」
「でしょう?それでですね・・・」
「ハイハイ。そこのカップルさんたち?そろそろやめなさい」
ふたりが楽しくおしゃべりしていたのを、おばさんが止めた。
「なんだよ母さん、ちょうどいいとこなのに・・・」
「こんの馬鹿息子。三時間もティエリーちゃんとしゃべってんだよ?いつまでしゃべれば気が済むんだい?」
「えっ!?そんなに!?」
アルトが時計を見ると、ティエリーが来たのが1時ごろだったのに、すでに4時を回っていた。
「もうこんな時間なの?早く帰らないと・・・」
残念そうな声でティエリーが応え、荷物を持つ。
「はい、ティエリーちゃん。これくらいでいいかい?」
ティエリーに手渡されたお金は結構な量であった。
「え、こんなに?ちょっと多すぎる気が・・・」
「いいんだよ。もらっとくれ。いつもありがとうね」
おばさんの厚意にペコペコと頭を下げたあと、ティエリーはアルトに近寄った。
「な、なんですか?」
「あ、あのですね・・・」
ティエリーは頬をほのかに紅く染め、指をもじもじさせながら、上目遣いで言葉を続けた。
「あ、明日、野イチゴを一緒に・・・採りに行きませんか?あの、ジャムを作ろうと思うんですけど・・・」
おもくそ露骨なデートの誘いだった。
「え、も、もちろん、いいですよ」
するとティエリーは顔を明るくしたあと、また顔を紅くしてもじもじしたあと、アルトに飛びついて、耳元で
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