ジパングのとある山に、恐ろしい妖怪たちが住んでる、という噂があった。
この妖怪たち、たいへんイタズラが大好きで、山道を通るひとびとを驚かしたり、積み荷を盗んだりしていた。
たとえば、こんなふうである。
とある男がとなりの村に荷車で酒を運んでいたとき。
ふと男が気づくと、夕方になり暗くなりはじめた山道の先で、娘がうずくまって泣いており、その娘を母親か姉かと思える女がおろおろしていた。
「うぇーん!うぇーん!」
「あらあら、どうしましょう・・・ほら、泣き止んで?ね?」
山道に女子供ふたりだけとはおかしな事だが、男は親切で、ふたりに話しかけた。
「どうしたんだ?なにか、あったのか?」
「あら、どうも・・・実はこの子が泣きはじめてしまって、動かないんですの・・・」
「ひぐっ、うぇーん!うぇぇーん!」
男は荷車を置いて、顔を隠して泣きやまない女の子に、なだめるように話しかけた。
「おぅおぅ、どうしたんだ?お腹でもいてぇのかい?それとも、腹でもへったのかい?」
すると女の子は顔を覆いながら首を振り続け、泣きながら言った。
「ひぐっ、えぐっ・・・ないの・・・」
「ない?なにがだい?何か落としたんだったら一緒に探してあげ・・・」
「目がないのぉぉぉぉぉぉっ!!!」
なんと、顔を上げた娘の目が無く、流れる涙は血で真っ赤だった!
「うわぁぁぁっ!?」
「どうしました?」
「ど、どうしたって、この子、目が・・・」
なにもないかのような声で尋ねた女に振り向くと・・・
「ところで私、キレイ?」
女の口が耳まで裂け、にたりと妖しく笑っていた!
「ぎゃあぁぁぁっ!!?」
男は涙ながら女を押しのけ、荷車に手を伸ばした。
その瞬間。荷車の上の木から、大きなモノが降ってきた。
「ぎゃおーっ!喰べちゃうぞーッ!」
暗く見えにくいが、その巨体は二本の剛腕を振り上げ、男に襲いかかった!
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?おっ、お助けぇぇぇっ!!!」
男は荷車なぞ知ったものかと、叫び散らして逃げだした。
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手を変え、品を変え、似たようなことが何回もあった。(妖怪の正体を見たものはいなかったが)
浪人や退魔師や坊さんなど、様々な人が退治を試みたが、みなことごとく返り討ちにあい、若い男になると、帰ってこなかったらしい。
結局、今ではその山は『三妖山』という名前で呼ばれ、極力、人は立ち入らないようしていた・・・
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「・・・あの山に登るのはやめなせぇ、若ぇの。アンタくらいの男はみーんな、帰ってこなかったんだぜ?」
三妖山の麓の茶屋の軒先。長い前置きをくどくどと老いた茶屋主人に聞かされた男は、団子を飲み込んだ。
「ふーん。ごっそさん。おあいそ」
「あ、あぁ。わかったな?登るのはよすんだぞ?絶対だぞ?」
代金をもらうと、主人は店の中の客のほうへ向かった。
男は立ち上がると、肩に引っさげた徳利の中身をちびっと飲んだ。
「・・・『絶対、登るな』、ねぇ」
男はニヤリと笑った。
「やるなやるなと言われたら、やりたくなるのが人の性。いい土産話になりそうだ♪」
男は、筋金入りの遊び人だった。
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夜。
二体の魔物が、チンチロリンをしていた。チンチロリンとは、賭け事の一種。簡単な話を言えば、三つのサイコロを茶碗に投げ込み、でた目によって勝ち負けが決まるもの。ちなみに茶碗から出てもアウト。微妙な力加減がいる。
今、下半身がクモの魔物が、サイを振った。
「おっしゃあ!シゴロ(四・五・六)だ!アタシの勝ち決定だな!」
彼女はウシオニ。先の運び屋の男を最後に襲った巨体が彼女である。
ちなみにシゴロは結構強い役で、ピンゾロ(全て1)くらいがシゴロに勝てる役だ。
「あら、そんなこと言うと、運が逃げるわよ?驕れる者はなんとやら、って言うでしょ?」
くすくすと笑って挑発するのは、妖狐、否、稲荷である。
長い金髪から見える狐耳。着物からはみ出た6本の尻尾。素晴らしいほどのモフモフ。
彼女は、妖術を使って口裂け女を演じていたのだ。
「うっせ!さっさと振れ!アタシが勝ったら、昨日残った酒、アタシんだからな!」
「はいはい・・・うふふ・・・」
妖しく笑った稲荷が、優しくサイを振った。
「・・・がっ!!?」
「はい、残念。ピンゾロ。私がお酒もらうわね?」
見事、ピンゾロ。賭けていたのは残った酒だったようで、稲荷がそばに置いてあった酒瓶を自分側に引き寄せた。
「チッキッショォーッ!!なんで勝てねぇかなぁーっ!?」
「うふふ・・・驕ったからでしょう
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