宵ノ宮市。
住民の8割がフォックス種魔物(要は妖狐や稲荷や時々狐憑き)というこの市街の一角に、とある会社があった。
「おい。この物品搬送データ、明日までに整理してくれ」
「分かりました」
「社長、5番、お電話です」
「ん・・・はい。華田コーポレーションです」
華田(はなだ)コーポレーション。
会社の規模は小さく、社員も少ないが、様々な会社と取引をしており、『取引会社は東はアメリカ、西はイギリス』という噂まであるほどの活動域を持つ会社である。
ここは、社長と事務員がいる事務室である。
「・・・あぁ、はい、その件はですね。私の会社からの資料を見ていただきたいのですが・・・」
今、電話を取っているのが、社長『華田 明菜』。
人間であり、この父から譲り受けた華田コーポレーションをここまで盛り上げた張本人だ。
縁ありメガネに後ろで縛った髪、キチッと決まったスーツ。ザ・キャリアウーマンと言っても過言ではないその容姿に見合った以上の仕事処理能力で会社を引っ張っている。
『PLLLL・・・PLLLL・・・』(電話発信音)
「はい、お電話ありがとうございます。華田コーポレーションです。あ、ライゼン社の方ですか?いつもありがとうございます。」
また新たにかかってきた電話を取ったのは、この会社の電話嬢『新山 葉月』(にいやま はづき)。宵ノ宮の外から通っている稲荷で、その器量と美しい声色、見た者10人中8人9人の人が振り返る美貌に、会社内の男から慕われている。
『カタカタカタカタカタ・・・』
「・・・よし、終わりぃっ♪えーと、次は〜・・・これだ♪」
『カチッ、カタカタカタカタカタ・・・』
素早いタッチでキーボードから軽快な音を鳴らしているのは『藍川 彩奈』(あいかわ あやな)。こちらは妖狐で、少し男勝りで明るい性格と絶えない笑顔、注目の的になりがちな、妖狐の仲間内でも大きい胸から社内の男からの人気は高い。
この二人が、社内の人気女性トップ2であった。
さて、彼女らのいる部署には、去年入ったばっかりの新人社員がいた。
「『白崎』!この書類のデータ、間違ってるぞ!やり直しとけ!」
「はい!すんません!」
「白崎くん!それやるついでに、明日の会議に使うデータ、整理しといてくれ!データはこのUSBにあるから!」
「はい!わかりました!」
『白崎 勇人』(しらさき ゆうと)。
見た目はまだ幼さが残る童顔で、身長も低め。スーツ姿について、カッコいいよりも可愛いが先に頭に浮かぶ容姿である。
去年大学を卒業後、華田コーポレーションに入社した彼は、今や男性社員のいい使いっ走りだった。しかし彼は嫌な顔ひとつせず、元気な声で返事をして仕事を真面目にやっていた。
一年を経て信頼できる同僚や先輩を得て、やっと会社に馴染み始めていた。
・・・そんな彼に、入社当時から三人の女性たちがアプローチをかけていた。
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夕方になり、華田コーポレーションも就業となった後。
「ん、くぁぁっ・・・終わったぁ・・・」
椅子に座っていた勇人が大きく伸びをした。
「お疲れ様、白崎」
「ッ!?しゃ、社長!?」
その時、白崎の肩をポンと叩いたのが、社長の華田だった。白崎は慌てて椅子から立ち上がった。
「最近、頑張っているわね」
「い、いや。まだまだです・・・失敗も多いですし・・・」
「そこは慣れよ。早く慣れないといけないのは事実だけど、努力の姿勢は認めないとね」
「あ、ありがとうございます・・・」
照れながら頭を掻いて白崎がお辞儀をする。華田はひとつ咳払いをしてから話を続けた。
「えー・・・それでだな、お前をねぎらって、今から飲みにでも・・・」
「白崎ィーッ!飲みにいこぉーっ!」
ところが。いきなり横から入ってきた藍川が会話をぶちぎった。
「うぇっ!?藍川先輩!?」
「ほらほらぁ♪さっさと行こう♪」
「あ・・・」
藍川がベタベタと白崎にくっつきながら言う。華田は手を宙に泳がし、戸惑っていた。
「やめなさい!彩奈さん!白崎くんが困ってるでしょう!」
さらに、そこに今度は新山が介入した。白崎に絡む藍川に食ってかかった。
「なによ・・・またいい子ぶって・・・」
「貴女の行動に慎みがなさすぎるんです!」
「本当は葉月も白崎にいちゃつきたいくせに・・・」
「貴女のような節操のない付き合いはしません!」
いつのまにか新山と藍川の言い争いとなり、白崎と華田が蚊帳の外になっていた。
「第一、貴女は毎日毎日飲みに誘って・・・時々白崎くんが遅刻するのは貴女が無理やり飲ませてるからでしょう!」
「む・・・そんなこと言うなら、葉月は変に高い店に連れて行って、しかも
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