前編「起きたら裸の娘がいたんだが」

親魔領のとある国。街から離れた森の近くにあるぽつんとある一軒家、ここに独り身の猟師が住んでいた。

「シィ、ユゥ、おいでー」

『ワンッ!』
『わふぅ!!!』

猟師、タンティアが呼ぶと、二匹の犬が反応する。
黒毛のシィは凛とした鳴き声を上げ、タンティアの前に駆け寄ると言われてもないのにおすわりをした。
逆に金毛のユゥは、呼ばれるなりタンティアに突撃して立ち上がり、タンティアにもたれかかる形でベロベロと顔を舐め始めた。

「わぷっ!?おい、ユゥ、こら、おすわり!おーすーわーりー!」

『ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ・・・』

主人のタンティアによほど甘えたいのか、ユゥはおすわりを指示されてもなかなか離れないままタンティアの顔を舐め続ける。

『・・・ヴゥゥゥ・・・』

その時、シィが低いうなり声をあげると、ユゥがピタリと止まり、ゆっくりとタンティアから離れてシィの隣におすわりした。

「うおぉ、顔がベタベタになっちまった・・・シィ、ありがとう」

タンティアがシィの頭を撫でると、姿勢を正したまま尻尾をぱたぱたと振る。それを見ているユゥは『くぅん』と寂しそうな声をあげる。

「今から狩りに行くぞ、上手く狩れたらまた褒めてやるからな」

その一言で、落ち込んでいたユゥはピンと耳をたて、尻尾をぶるんぶるんと振り回した。もちろんシィも耳をたて、ふんと鼻息を吐いた。


「よーし、行くぞ!ふたりとも、頼りにしてるからな!」

『ワンッ!』
『あぉ〜ん!!!』


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タンティアは、幼い頃から狩りをしている生粋の森猟師である。獣を狩り、その皮と肉を売って生計を立てている。

なお、職種は猟師だが、大魔法使いでもある。ただし、魔法は使えない。
直接言えば、この世に生を受けてからすでに30年が過ぎ、かつ彼女いない歴=年齢、そしてチェリーボーイと、三冠王である。

本人もこれはいかんと知り合いの紹介による見合いや、街に出向いての結婚相談所等、様々な方法を試していたが、すべてダメ。童貞、三十路ばっちこいと噂の魔物娘にすら「貴女のもとに嫁ぐのは難しいです・・・」と言われたことすらあるのだ。

もはや女性にもてない呪いでもかかってるのか、そう思い、女性関係に関しては落ち込むしかないタンティアにとって、シィとユゥは心のオアシスとなっていた。
この愛犬たちは、タンティアが一人前の猟師になった時に飼い始めた子たちで、タンティアと共に成長し、今や立派な猟犬コンビ。
ユゥが獲物を追い立てればシィがその逃げ道をふさぐ。シィが獲物の背後からゆっくり忍びよれば、ユゥが睨んで唸って動きを止める。そしてトドメはふたり同時に食らいつく。
ふたりでどうにかできないような大物は、吠えに吠えて気を引き、タンティアに弓矢の狙いを定めさせる。間違えてもタンティアの射線上に出るなどというミスは犯さない。
そしてタンティアには絶対忠義。いつでもタンティアの側にいるし、噛みつくなんてことは一切なく、ふたり揃って最高の忠犬である。

しかし、タンティアはもうそろそろ、この子たちの年齢を気にしていた。もう四捨五入すれば20に届くこの子達を、いつまでもこき使うわけにいかず、かといって自分が猟にでる間、留守番させるのも不安が残る。
だれか面倒を見てくれる優しい人がいれば。
あわよくば、料理を作ってくれたり、甘やかしてくれたり、なんだったら自分の下の犬と(ワオーン)してくれる人がいれば。
そう思い、タンティアは妻となる人を探していた。


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「なのに現実はこれ、か・・・」

タンティアは家の前の切り株に腰掛け、自分と愛犬たちが狩りに出ている間に届いたハーピー印の手紙に肩を落としてため息をついた。
それは1週間前にあったお見合いの返事で『今回のお話はなかったことに・・・』という内容であった。

「あ〜、なにがいけないんだ、もうわかんねぇなぁ・・・」

ついつい諦めを交えた愚痴を吐き、手紙を放り出して地面にドサッと横になる。するとシィが近づいてきて、慰めるようにタンティアの顔をペロペロと舐めた。

「うぅ〜・・・シィ、俺のこの心を慰めてくれんのはお前くらいだ・・・」

シィに慰めてもらえた気分になったタンティアは、シィをギュッと抱きしめる。シィは暴れるでもなく、ただただ抱きしめられて尻尾を振っていた。

「はぁ、もうお前もユゥもいずれいなくなってしまうかもしれんのに・・・俺はそうなったら完全なひとりぽっちだ、お前ら以外の犬を飼うのもあんまり想像できねぇしなぁ・・・」

情けないため息を吐きながらシィの背中をわしゃわしゃと撫でるタンティア。
その撫でられているシィは、どこか悲しそうだった。


ちなみにユゥは投
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