もぞ。もぞ・・・
「・・・んん・・・」
二つある布団の片方の山がむくりと起き上がる。
「くぅ・・・あ、ぁぁ・・・」
時刻はほぼ午前4時。
天津神社(アマツジンジャ)神主『天津 狐臣(アマツ コシン)』はゆっくり伸びをして首を曲げた。布団が落ち、筋肉のついた胸板が肌を見せる。
「すぅ・・・すぅ・・・」
もうひとつの山は、まだ寝息をたてており、ゆっくり、わずかに布団が上下していた。
「・・・ふぅ」
音をたてぬよう注意して、狐臣は布団から出て、横に畳んである襦袢(肌着)を着る。
「・・・よし」
そのまま、抜き足差し足で部屋を出ていった。
残された山が、寝返りをうち、九つの金色の尻尾を布団からだした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ザバァッ!
狐臣は、井戸から汲んだ水を、すぐそばで頭から被っていた。
目を覚ますためと、己を制すための日課である。
「心頭滅却すれば、火もまた涼し。心頭滅却すれば・・・」
バシャァッ!
「・・・水は暖かくならんな・・・」
もう神主になってから何年もしていることだが、未だ慣れない。冷たいものは冷たい。
桶三杯ほど被ってから、狐臣は乾いた手拭いで身体と頭を拭いた。
「ふみゅぅ・・・」
「ん?」
襦袢を着替えた頃、眠そうな声とともに現れたのは、先ほどの布団から出てきた稲荷『九重(ココノエ)』であった。
寝ぼけ眼をこすりこすり。襦袢は乱れ、肩口やたわわに実った乳房がのぞいている。尻尾も元気がなく、ずりずりと引きずって、ふらふらとまっすぐ歩いていない。
完全に寝ぼけている。下卑た男なら、垂涎ものの状態。最高級品の真鯛が、刺身にされて醤油まで添えてあるような状態である。
しかし狐臣はため息をついて、井戸に戻り、桶に水を汲んだ。
「九重様、九重様」
「うにゅぁ?く〜りんまる?」
廊下から降りて、九重がこれまたふらふらと、おぼつかない足取りで狐臣の元へゆく。
「えへへ、く〜りんまるぅ〜」
ぎゅっ。
狐臣の胸元まで寄ると、九重は甘えた声で狐臣に抱きつき、ぐりぐりと頬を胸板に擦り付ける。背が低いため、頭がちょうど狐臣の胸の位置にいく。かわりに、豊満な胸は腹部に押しつぶされている。うらやま(ry
「えへへ、えへへ〜」
「九重様。お顔をお洗いください。ここに冷えた水がございますから」
「ん〜っ、やー。もっとぐりぐりするのぉ〜。なでなでしてぇ〜」
「はいはい」
普通、ここまで巨乳美女に甘えられて、冷静を保ち、かつ、平静を装って対応できるだろうか?
普通、無理。ていうか、作者は無理。
げふんげふん。だが、狐臣は違う。
にこやかに微笑みを浮かべ、九重の頭を撫でてやる。九重はとても満足した顔になりながら、もっと、もっととおねだりする。
結構な時間、撫で続けて、ようやく九重の眼が開いてきた。
「うにゅぅ・・・んー?」
「・・・おはようございます、九重様」
声に反応して、九重が目を半分くらい開けた顔を、上げた。
それから、大体、5秒後。
みるみるうちに九重が目を見開き、顔を真っ赤に染め上げた。
「えっ、あっ、う!?こここ、狐臣!?わ、わたくし・・・」
「だいぶいい夢を見られたようで、起こすのを躊躇っておりました」
ニッコリと、狐臣が微笑む。
瞬間、九重が顔をひきつらせ、涙目になり・・・
「う、うぅ・・・狐臣の阿呆!馬鹿!意地悪ぅぅぅっ!ふぇぇぇぇぇん!」
狐臣を突き飛ばして、顔を覆って走り去ってしまった。
バタバタと廊下に足音が響き、やがて聞こえなくなった。
「・・・やれやれ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
午前6時。
「九重様〜?ふてくされないで、出てきてくださ〜い?」
『イヤです』
「・・・やれやれ」
寝ぼけ状態で甘えまくった上、遊ばれたことにヘソを曲げた九重様が寝室から出てこない。障子越しに布団をぼふぼふしているのが聞こえる。
天津神社に来る参拝者たちの目当ては、ほとんど九重様である。
店の発展、豊作など、九重の魔力を利用した願い事は高確率で叶い、人数を限らなければ一日を使いきっても捌けないほどの人が来る。
その九重様が部屋から出ないから今日はナシ、などとできるわけもない。
説得を試みるが、状況は打開できてない。
「どうしても駄目ですか、九重様?」
「駄目です!」
「絶対?」
「絶対に!」
「それならしょうがないですねぇ」
「ダメったらダ・・・え?」
しつこく言い寄ってもだめならば。
私は急遽、やり方を変えた。
「九重様がイヤならば、しょうがないですよね」
「え、えぇ!そうよ!」
「せっかく今日は油揚げ屋の旦那さんが来て、極上の油揚げを献上してくれるハズでしたのに」
「え・・・」
「さらに老舗酒屋
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