「絶ッ対ッダメ!」
その大声に、話していた当事者だけでなく、側でお茶をしていたメデューサとスケルトンまでビクリと肩を震わせた。
「そ、そんなに怒らなくても・・・」
「怒ってなんかないっ!」
明らかに怒り、髪の蛇たちまで警戒色になっているのはメデューサの『シェリー・ウィーリィ』。そのシェリー、妻に怒られて困っている童顔隻眼の男が、夫の『フォン・ウィーリィ』である。
さて、シェリーの怒りの原因はというと・・・
「よりにもよって魔界に行きたいなんて、許せるわけないでしょ!!」
このフォンの提案である。
「頼むよシェリー。仕事でどうしても、魔界について書いて欲しいって頼まれたんだ」
「・・・それが本当なら編集長を締め上げるわよ」
「ごめんなさい僕のワガママです」
「じゃあダメ」
シェリーが頑として首を立てに振らず、フォンはしょんぼりしてしまった。フォン自体は戦闘スキルが皆無なので、護衛にシェリーが必要なのだ。
それを見かねたお茶をしていたメデューサ、シェリーの母の『リディア』が助け舟を出した。
「だったらフォン坊や。ギルドに依頼を出したらどう?」
「ギルド?」
「ちょっとママ!?」
シェリーが文句を言おうとした瞬間、リディアの手がシェリーの顔にアイアンクローをかました。
「こんな坊やの言うことにやいのやいの言う子より、ちょっとお金払うだけでついて来てくれるギルドの人の方が頼りになるわよ?」
「イダダダダダダダダ!?ママごめんなさい!ごめんなさいってば!?」
ギリギリと締め上げられる激痛にシェリーが暴れる。それがいつものことながら、フォンは心配そうな声色で答えた。
「あの、その・・・シェリーは僕のことを思って言ってくれてたわけですし、そんな怒らなくても・・・」
「なに言ってるの坊や。たまにはガツンと言わなきゃダメだよ。特にこんな我儘娘相手にはね!」
さらに力が込められ、シェリーはもはや声にならない叫びをあげる。フォンはあたふたしながらなんとかリディアを止めようとする。
それを側で眺めていたフォンの母、スケルトンの『エリィ』がクスクス笑った。
「あらあら・・・リディアさんも、二人も、若いわねぇ・・・」
そう言って、エリィはお茶を啜った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
魔界にある港町、アクアフォース。
魔界と人間界の交流街となっているここには大きなギルドがある。町での小さなお願いから危険伴うSクラスミッションまで、様々な依頼を一手に担うギルドだ。
その受付前の待合室に、フォンとシェリーはいた。
結局、ギルドに依頼して安全を確保した上で探検する、という妥協案で、渋々シェリーは首を縦に振った。
「わー、わー・・・すごいなぁ。これがギルドかぁ・・・こんなおっきいの初めて見た!」
「ちょっと、フォン。そんな子供みたいにはしゃがないでよ・・・もう」
これからの冒険どころか、ギルドの中にいるだけで興奮しまくりのフォンを、シェリーがフォンの服の裾を握ってあっちこっち行かないように制止していた。
「おぅおぅ。こんなギルド、魔界にはあちこちあるぞ?これで興奮していたのでは、魔界では倒れてしまうのぅ?」
カラカラと笑いながらギルド長、バフォメットの『リザリア』がフォンたちに声をかけた。
「あ、こんにち・・・すごい!バフォメットだ!」
「フォン!流石に失礼でしょ!!」
丁寧な挨拶をすると思いきや、いきなり目を輝かせて叫んだフォンの頭を、シェリーがすっぱたいた。ハッと気づいた時には周りがクスクスと笑い、シェリーは赤面する。
「バフォメットを見るのも、初めてかの?」
「はい!うわぁ、すごいなぁ・・・これだけでも魔界に来た価値があるなぁ」
「わははは!こんなことでは、本当に今日の依頼の途中に興奮で頭の血管が切れてしまうのではないか?鎮静魔法でもかけてやろうかのぅ?」
カラカラと笑うリザリアを相手に、フォンは何故か手帳にペンを走らせていた。シェリーは、真っ赤になった顔でフォンの首根っこを掴み、リザリアとの距離を空けさせてから尋ねた。
「・・・で?私たちの魔界探検に付き合ってくれるのは貴女なのかしら?」
「いや、うちのギルドで戦闘スキルではトップクラスの3人組に任せようと思うのじゃ。今、二階で・・・」
『どんがらがっしゃーーーん!』
その時。
階段からひとりの男性がゴロゴローッと転がり落ちて来て、フォンたちの前で停止した。
「・・・イタタ・・・持ったら持ったであの羞恥っぷりは困るな・・・う?」
落ちてきた男が腰や頭を摩りながら立ち上がり、フォンとシェリーに挨拶をした。
「あぁ、こんにちわ」(???)
「・・・こ、こんにちは」(フォン)
「・・・だ、大丈夫なの?
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