ー空にはジリジリと焼きつく太陽
ー地面は白い砂と無骨な岩石ばかり
ー照る光は砂を煌めかせて反射し
ー太陽の熱さを倍加させている
ー歩む魔界豚も舌を出して暑がり
ー手綱を持つ彼女も汗まみれである
ー私も滝のような汗を流すが
ー私の妻はやけに涼しげである
(ウィーリィ冒険譚、砂漠都市『テ・ウベ』、【序章:旅路】より抜粋)
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(ブフォ・・・ブフォ・・・)
砂と岩石ばかりの砂漠を歩く魔界豚の息づかいは、全力疾走してバスを追いかけた後の人より荒く、吐息は生暖かさに富んでいた。
「トンピー・・・頑張ってぇ・・・もうちょいだからさぁ・・・」
『ぺちん』
(ブフォ〜・・・)
麦わら帽子を被り、その魔界豚の噛んでいるハミ(競走馬の噛んでる金属のやつ)に繋がる手綱を持っているゴブリンの少女が鞭を振るうが、すでに熱さにやられているのか弱々しい。しかし魔界豚はひと鳴きして、歩みを強めた。
「・・・フォンの旦那〜・・・大丈夫ですか〜・・・」
ゴブリンが振り返って尋ねる。彼女の後ろ、魔界豚の背中には幌付きの荷物載せ部分がある。その中で、もう渇き始めた湿りタオルを頭に乗せた隻眼の男が荷物に紛れて横になっていた。
「大丈夫だよ・・・ちょっと、暑いかな・・・」
「暑いのと乗り心地が悪いのは勘弁してくだせ〜・・・」
「乗り心地に文句なんてないよ・・・無理やり頼み込んだんだから・・・」
彼の名は『フォン・ウィーリィ』。冒険作家である。
彼の著書は賛否両論あるものの、新参冒険者には分かりやすく、また密かに一般人の恋愛話好きの魔物たちの間での流行本になりつつある。
前者はともかく、後者についてそれはなぜかと言えば、となりでハンカチをはためかせてフォンに風を送るひんぬーメドゥーサ、『シェリー・ウィーリィ』の存在だった。
「ちょっと、まだ着かないの?フォンが茹だっちゃったら、締め上げるわよ」
彼女はメドゥーサ特有の睨み目をゴブリンに向け、ツインテールに纏められた蛇たちの半分をゴブリンに向けさせ、もう半分をフォンに向けていた。もちろん、ゴブリンには威嚇、フォンには心配をしている。
「奥様〜・・・無茶言わんでくだせ〜・・・これでもトンピーフルスロットルで向かってまさ〜・・・」
「奥様って言えば、機嫌良くなると思わないでくれる?」
(・・・チッ、最近はこれも通じなくなってきたか・・・)
ギロリと睨みを強めたシェリーに対し、ゴブリンは小さく舌打ちをした。
「・・・シェリーは、なんか、涼しそうだね・・・」
「ん・・・確かに、そんな言うほど暑くはないけど・・・日陰だからじゃない?」
ラミア種のなにかの特性なのか、それとも魔物の上位種だから身体が頑丈なのか。シェリーは自分でもわかってないのか、首をかしげた。
「・・・どれどれ・・・」
すると、フォンは濡れタオルで自分の汗を粗方拭き、ゆっくりとシェリーに抱きついた。
「・・・へ・・・?」
「・・・あ、やっぱりシェリーの方がひんやりしてる・・・」
フォンが少し幸せそうに頬を緩めたところで、シェリーは顔を真っ赤にさせ、ジタバタと暴れ始めた。
「・・・ばっ、ばばばば!フォン!ななななにしてるのよ!!?」
「はぁ〜・・・シェリー、気持ちいいよ・・・もうちょっとこのままで・・・」
「そんないやらしい台詞こんなとこで言わないでーーーーーーっ!」
(・・・奥様の頭の方がいやらしい気がしますがねぇ・・・つぅか、独り身の私にまた見せつけるのか。旦那め・・・爆発しろ・・・)
歯をギリギリと鳴らしてフォンたちのいちゃつきを見ていたゴブリンだが、嬉しそうに鳴いた魔界豚の鳴き声に前を見る。
「・・・お、おぉ〜・・・」
先に見えた、緑の大地と白い家々、巨大なピラミッドに、ゴブリンは目を輝かせた。
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ー砂漠の広がるイーディップ地方
ーその白い砂原の中で青々と茂る土地がある
ー巨大な四角錐の古代建造物『ピラミッド』
ーそれを中心にしてその緑の大地が広がっていた
ーそこには多くの人々が暮らし
ー魔物と人間が手を取り合っていた
ー私達はここまで連れてきてくれた商人と別れ
ー現地の執務官様に案内をしてもらった
(ウィーリィ冒険譚、砂漠都市『テ・ウベ』、【二章:到達】より抜粋)
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「そんじゃあ、私は商売をしますんで。数日後にまたお迎えにあがります〜」
砂漠の中で唯一緑の生い茂るオアシスにある町『テ・ウベ』。
ここは数年前にファラオが復活したことで明緑魔界が発現し、そこに人や魔物が集まり、小さな町となったのだ。
明緑魔界とは、最近になって確認され始めた魔界であり
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