[生徒会室]
「・・・へぅ〜・・・」
昼前に運び込まれた大量の冒険講習チームシートの山に囲まれ、生徒会長であるドッペルゲンガー『クロエ・シャガーナ』が可愛いため息を吐いた。
「やっと終わったよぉ・・・疲れたぁ・・・」
それはそうである。ここには全校生徒のチームシートが集められ、受注したクエスト内容、向かった場所、期限などを集計しておき、さらになにか問題が発生した際にすぐに処理できるように整理しておかねばならなかった。
それを今、なんとクロエひとりでやっていたのだ。
「へぅ〜・・・疲れたよぉ〜・・・」
泣き言を言っているが、先ほどまでクロエの手は素早く動き、次々とチームシートの内容を書き記し、向かった場所と期限ごとにチームを集計した表を作っていた。そのスピードは凄まじく、泣き顔に似合わぬ敏腕デスクワーカーのそれに匹敵していた。
「・・・可愛い
hearts;」
それを横で眺めながらほっこりし、クロエの整理したシートを『チームシート集計棚』と書かれた棚に、向かった場所のラベル通りに整理していたのが『サリス・ウッドリア』である。彼女は普段寝坊助なのだが、クロエがいるとクロエ愛護者になり、かつ働き者になるのだ。寡黙なマンティス?なにそれ食えるのか?
「サリスにも書類整理能力あればいいのになー・・・」
「ワタシ、字、読メナイヨ?」
「うん・・・知ってる・・・」
サリスの棒読みに、クロエはぐったりした。サリスは身体能力は全校生徒中でもズバ抜けているのだが、おつむがさっぱりなのだ。
「あ・・・そう言えば、『緋夜』くんまだ帰ってないね・・・大丈夫かな・・・」
「・・・あんな小僧、来なくていい」
「ダメだよサリス!緋夜くんは大切な一回生なんだから・・・」
不機嫌そうに頬を膨らますサリスをクロエが窘めた時、遠くから音が聞こえた。なにか、なにかが盛大に音を立てて走るような・・・
『・・・ドドドド・・・』
「あ、来たかな?」
「・・・チッ」
クロエが顔を上げ、サリスが舌打ちした時、あっという間に音が大きくなり、かと思えばブレーキ音が鳴った。
『ドドドドドドドドドッ、キキィーーーーーーッ!』
「会長ぉーっ!一回生、『緋夜 天月』!ただいま到着致しました!」
バンと扉を壊すのではないかという音と共に、大声で生徒会室に入ってきた男子生徒は、体のあちこちを擦りむき草木を服に付けながらも、ジパングのカタナを肩に担ぎ、満面の笑みであった。
「おかえり、緋夜くん・・・って、怪我したまんまだよ!?」
「こんな怪我、会長に『おかえり』を言ってもらった上に笑いかけてもらうだけで全回復ですよ!それより、遅れてしまいました!『粘質の湿地帯』の巡回冒険、終わりました!」
天月と名乗る青年は担いだ刀の鞘にくくりつけてあった袋からドサリと書類の山を取り出し、笑って敬礼した。
「あ、ホントにひとりで行ってくれたんだね」
「あんなの、生徒会入会試験の『竜祠の谷山』巡回より数段簡単でしたよ!まぁ、クイーンスライムの下僕スライムに囲まれた時は攫われるかと思いましたが、会長が待っていてくれることを思ったら突破できましたよ!」
「ホントに、ありがとう。これの巡回冒険に行った3回生、帰って来なかったから、今回の冒険じゃ使えなかったんだけど、次回から使えるね」
「会長からのありがとういただきましたワーーー(°∀°)ーーーッ!」
「あ、あは、あははは・・・」
天月の喜び具合に軽くクロエが引く。それに対し、サリスは思いっきり不機嫌顔をした。
「・・・2回生レベルの冒険講習ひとりで帰ってくるとか化け物かコイツ・・・」
「貴女に化け物と言われてもなんのダメージもありませんから」
サリスの呟きに天月がしれっと答えた時、サリスの頭から『ぶちん』という音が聞こえた。
「・・・坊主、調子乗りすぎ。会長に褒められたからっていい気になってると・・・ヤ(殺)るよ?」
「はい?なに?ヤ(犯)る?言っときますけど、貴女みたいなおバカ脳筋には反応しないんで。俺とヤりたければ会長みたいに激しく可愛くなるか、姉属性を・・・あ、無理だわー。会長超えるとか貴女には無理だわー。姉属性も無理だわー。貴女に萌える要素ないわー。残念だわー」
天月がお手上げポーズで挑発すると、サリスの目つきがギロリと変わり、カチャリと鎌を煌めかせた。
「・・・ブッコロス」
「やりますか?下克上上等っすよ」
対する天月もスラリとカタナを抜き、それはそれは冷たく、恐ろしく、泣く子も黙るどころか気絶しそうなほどの気迫を見せた。
ふたりが対峙し、もうしばらくしたら斬り合っていたであろうという空気に、クロエが割りいった。
「あ、あ、あぅ・・・ふ、ふたりとも!こ、こんなとこで
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