見える『娘』はメドゥーサで!



「パパはいつもママとばっかり冒険に行くのね」


突然部屋に入ってきた娘の一言に、椅子に座って本を読んでいた父である眼帯をした男は右目をぱちくりとまばたきさせた。

「・・・いきなり何を言うんだい、『サティア』?」

「別に?思ったことを言っただけよ」

父の名は『フォン・ウィーリィ』。

とある細工店に勤めながら、冒険家として名を馳せている。世界のあちこちを旅してその道中の日誌を書物にした『ウィーリィ探検手記』シリーズは、多くのファンが読み、次はまだかと期待されている。ちなみに出版は『ブラウン出版社』で、フォンの友人が経営している。

「・・・サティアも一緒に行きたいのかい?」

「べっ、別に?北の寒いルトシャラス地域や南の暑いイーディップ地域の話を聞くだけで、行くのめんどくさいなって思ってるし、全ッ然行きたくないわ!」

「・・・手記には書いたけど、サティアに話したっけ?イーディップ地域のこと?昨日、帰ってきたばかりだけど・・・」

「・・・・・・ぁ」

追記。どうやら出版前の原本である彼の生手記は、娘の『サティア・ウィーリィ』の愛読書になっているようだ。

「・・・やっぱり、行きたいんだ?」

「・・・ッ、行きたくないっ!」

ぷいっと顔を背けるサティアだが、左側にまとめたサイドテールの蛇たちはみんなフォンに向かって精一杯身体を伸ばしておねだりをしようとしていた。

「う〜ん・・・僕は別にいいとは思うけどね・・・」

「えっ、ホント!?」



「私は許さないわよ」



その時、サティアの後ろから冷え切った鋭い刃のようなキツい口調の声が飛んだ。
その声にサティアは顔を一瞬で不機嫌にし、フォンは頬をポリポリと掻いた。

「う〜ん・・・ダメかい?『シェリー』?」

「・・・ママ・・・」

「ダメに決まってるでしょ。まだ成人もしてないサティアを連れていけるもんですか。第一、貴方に甘えてワガママ言うこの娘の姿がありありと見えるわ」

彼女は『シェリー・ウィーリィ』。

サティアの母、フォンの妻であり、冒険家仲間の間では『ガーディアン(守護者)』という女性には似つかわしくない二つ名をつけられたメドゥーサである。
夫であるフォンを溺愛しており、四六時中近くにいないと気が済まない。フォンが盗賊に襲われれば、全員石化させて近くの魔物娘たちに襲わせる。魔物娘がフォンを誘惑しようものなら、いかなる魔物だろうと鉄拳制裁で撃退する。そんな夫命のメドゥーサである。


ただ、娘との仲は不仲なもので・・・


「はぁ!?私はワガママなんか言わないわよ!ママの方が旅先ではワガママ言いまくってんじゃないの!?パパの手記見て、ママに関することってエッチ以外ワガママばっかりじゃない!」

「私のは『妻としてのお願い』よ!フォンは気を許すとデビルバグの巣窟の中さえ探検しようとするんだから!私がある程度抑制しないといけないの!貴女を連れてったら、自分に利になることばっかり言うでしょ!」

「言いませんー!ていうかなにその屁理屈!?じゃあ昨日読んだイーディップ地域での『訪れたピラミッド内では手をつなぐ様に言われた』って何よ!?完ッ全にママの私利私欲じゃない!」

「このバカ娘!フォンの手記をまた読んだの!?というか、それは周りに魔物がたくさんいたからよ!マミーにギルタブリルにスフィンクスにアヌビス!そいつらがフォンに近寄らないようにするためよ!」

「言い訳でしょそれ!ホントはただイチャイチャしてるとこを見せつけたいだけでしょ!」

「なんですってぇぇっ!?」

「なによぉぉぉっ!!」


この通り、すぐさま二人は口論を始めてしまうのだ。ひどい時には、取っ組み合いの喧嘩を始めてしまう。

「・・・うーん・・・どうしよ・・・」

フォンは頬を掻いて悩んでいた。

その時、最大の仲介役が部屋に入ってきた。



「フォ〜ン?シェリーさん、サティアちゃん。夕飯ができたわよ?喧嘩なんかやめて、みんなでご飯食べましょう?」



フォンの亡き母、『エリィ・ウィーリィ』である。
亡き母、というのは、彼女がスケルトンだからだ。ちなみに、彼女は右目がない。なぜないかは、また別のお話で。

『・・・ふんっ!』

結局、シェリーとサティアはお互い顔をそらし、サティアはさっさと居間へ向かい、シェリーはフォンに近づき・・・

『ぎゅっ』

「フォン、サティアを甘やかさないで!」

「ひぇりー、いひゃい、いひゃい」(頬を抓られてる)

「・・・あらあら・・・」

その光景に、エリィはため息を吐いた。


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「なんとかした方がいいんじゃない?フォン」

夕飯後、今に残っていたエリィがフォンに言った。ちなみにシェリーとサティアは自室へ帰還して
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