とあるダメ娘のダイエット


「う〜〜〜ん・・・」

町の大きな屋敷、イェルベル家の屋敷で、ひとりの青年が唸っていた。
彼は若き領主『ヤクト・イェルベル』。この家の長男である。父母ともに現在は田舎で隠居しており、『彼ら新婚夫婦』はこの家にふたりですんでいた。

「・・・どうしたの?」

噂をすればなんとやら。
部屋の扉を開けて、彼の妻、マンティスの『クーヤ』が現れた。彼女はクッキーの袋を抱えており、ぽりぽりと食べながらだった。

・・・ひとつ。ヤクトの悪癖を言っておこう。なにか悩みながら人に話しかけられると、誰か確認せずに話しかけられたことを言ってしまうことだ。
たとえば、今みたいに。




「いやね・・・最近太ってきたクーヤに気づかれずにどうやってダイエットさせるかを・・・」




『ビシィッ!』

クーヤの周りの空気が凍りつき、クッキーを食べる手と口が止まった。

「・・・あ」

「・・・」

やっと気づいたヤクトはしまったと口で言わんばかりの顔で振り向き、クーヤはクールに引きしまっていた表情が崩れていた。

「し、失礼だ、ヤクト。わ、私は太ってなんか、ない、よ・・・?」

クーヤが引きつった顔で言う。
ヤクトは、どうするか少し悩んだ挙句、スッとクーヤのすらっとしているお腹に手を伸ばし・・・



『むにゅ』



・・・訂正。すらっとしている『ように見える』お腹をつまんだ。
すべすべした肌触りと共に、むにゅむにゅとした柔らかく結構な弾力を返す、脂肪という証拠が、そこにあった。

「・・・クーヤ?」

「・・・だって、だって・・・」

ヤクトとがお腹から手を離すと、クーヤは膝から崩れ落ちる様に床に四つん這いになり、片手で床を叩いた。


「クゥーヤとこの町に来てから狩りに行かなくてよくなったしっ、お肉屋さんが味付けしてくれたお肉すごい美味しいしっ、あと魚屋さんがよくオマケしてくれてそれがまた美味しいしっ、あと嫌いだった野菜がすごく美味しいしっ・・・あとお菓子が異常に美味しいしっ・・・!」


・・・要は『運動(狩り)する必要なくなった上、ご飯が超美味しい』っていう・・・

「クーヤ・・・それ、言い訳って言うんだよ?」

「うるさいうるさいうるさーいっ!」

ヤクトが追い討ちをかけると、クーヤは耳を押さえてぶんぶんと首を左右に振った。地味に涙目になっている。

「もうね、あの、ベッドで分かるんだけど、もうクーヤが怠け生活に慣れきっちゃって、太り始めたんだよ。クーヤが独りの時は、狩りで運動してたけど、今じゃずっと食べて夜ヤって寝ての繰り返しだろう?」

ヤクトはこの町の領主であり、要は金持ちだ。クーヤが働いたりしなくてもいい上、細かい日常生活の仕事は執事の『アツィッカ』がやってくれる。クーヤは全く動かなくていいのだ。それで日々が過ぎて行く。それが、原因だった。

「ね?ダイエットしよう?このままダラダラしてちゃダメだよ」

「・・・でも・・・」

クーヤは涙目で言った。



「・・・外出るのめんどくさい」



「君はホントにマンティスかい?」

すでにこのマンティス、手遅れな気もするのは作者だけだろうか・・・
説得に必死になりはじめたヤクトはこう言った。

「もう、いいかい!?このままだったら、君はまだ細身のマンティスだけど、『ぽっちゃりマンティス』とか『デブティス』とか言われるかも知れないんだよ!?」

「うっ・・・」

それを聞き、クーヤは想像してしまった。



『えー?ぽっちゃりー?だっさーいwww』
『ぽっちゃりデブ可愛いが許されるのはオークとかくらいだよねーwww』
『あはははーwww』



町の他の魔物たちにそう言われる自分を想像し、クーヤは静かに心に火をともした。

「・・・やる」

「え?」

「ダイエット、やる!」

クーヤは立ち上がり、ぐっと拳を握った。

「私はマンティス・・・森林の暗殺者・・・ぽっちゃりなんて、言わせるもんか!」

「おぉ!やる気になった!?よし、善は急げだ、アツィッカ!」

「ここに」(アツィッカ)

いつの間にやら白髪白髭をたくわえた老執事が扉の前にピシッと立っていた。

「馬車の用意をしろ!あと、クーヤのダイエットため、しばらくの間家を空けると、副領主に伝えてくれ!」

「畏まりました。すでに馬車は用意しております故、副領主様の家へ行ってまいります。失礼しました」

瞬間、アツィッカの姿が消える。今ならクーヤより素早いのではないのだろうか?

「クーヤ!これからダイエットだ!頑張るぞ!」

「うん・・・あ。その前に・・・」

クーヤは、先ほど抱えていた袋を拾った。

「クッキーだけ、食べきっちゃ・・・」


「没・収!#」


「えぇぇぇぇぇぇぇっ!Σ(;ω; )」


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