「皆さん、早く!いつ氾濫してもおかしくないですよ!」
そんな声がどこからか聞こえてくる。
大体毎年のことなので、もう慣れた。
ここはジパングの極南諸島。ジパングで最も嵐が来る場所だ。特に夏はすごい。ひっきりなしに長く、激しい雨と強い風が容赦なく吹き付けてくる。そんな中、俺は近所の小学校に急ぐ。実際、近所にある閏川が氾濫することはよくあることなので俺の足は自然と早くなる。まわりの家はすでに避難が住んでおり、ここにはもう俺しかいないので、背中からいやな汗がにじみ出てくる。
と、そこで…
(ん?)
そこにいるのは一人の女。長く豊かな藍色の髪が目を引く。白い、まるで死に装束のような和服を着ており、この世ならざる様な妖しい気配と相まってすわ幽霊かと思った。が
(いや、あれは人だ。生きている。)
こんなところで何をしているのだろう。そう思いながら彼女のもとに行く。彼女は俺をみてそっと笑いかけてきたが、
「何している!早く避難しろ!危ないぞ!」
しかし、彼女はこちらに笑いかけてくるばかり、
(避難場所がわからないのか?くっそ…しょうがない!)
「ほら!こっちだ!」
俺は彼女の手をつかみ、走り出す。冷たく、まるで骨の無いような感触に一瞬ぞっとくる心地よさを感じたがその感触を振り切り、避難場所まで連れて行った。
避難所は高校の体育館だった。
しかし、すでにいっぱいになっていた避難所に居場所はなく、その辺の教室に駆け込んでいた。しかし、困ったことがあった。
(おかしい…ちゃんと拭いたはずなのにどうして彼女は水びたしなんだ)
すでに彼女の足元には水たまりができており、さあどうしよう。
「えっと、どうして君はあんなところに?」
「……」
「なんで君はこんなに水浸しに?」
「……」
「あ〜、非常に言いにくいんだが、その、胸がみえる。」
「……」
(誰か助けて…)
嵐は去り、ようやく家に帰れることになった。
彼女のことは気になったがとりあえず、家に帰ろう。
その日も阿智憑けるような、轟々とした雨だった。
「皆さん、早く…」
お定まりの注意が俺の耳に入る。と、そこで…
(げっ、前の!)
再び、あの女性にあった。前回から全く懲りてないのか、あの時と同じ笑みを浮かべながらそこに立っていた。
(ええい。ったくもぉ!)
「おい!早くいくぞ!前行った場所だよ!」
「……」
「チッ、」
パシッ
避難所。
こんどは、ちゃんと体育館に来れた。
しかし…
(しょうがない、段ボールでも敷いとくか。)
またもヌレヌレのスケスケになっていた彼女の世話をあれこれしていた。
正直、もう、キツイッス。
しかし、
(まえはインパクトがデカかったから気付かなかったが、なんつーか、その、キレーだな。)
きれいな髪の向こうには、着物と同じくらいきれいで透き通った肌。目元の泣きぼくろが唯一のアクセントだった。
体のほうは手に余るような胸と腰が妖しいくびれを作っており、なんというか、艶やかだった。
中学生くらいで成長が止まっている高校生としては、そんな人に微笑みかけられると、取って食われそうな感じで、正直、たまらないっす。
いろいろ興味が湧いてきたので、彼女と話をしてみた。
「えっと、お名前は?」
「……」
「……」
辛抱強く待ってみる。すると、
「よ‥し、の…」
「よしのさん?ふ〜んえっと、どこに住んですか?」
「……す…む?」
「そう」
「す…んで、な・・い」
「え?」
どういうことだ?
「えっと、いえ…は?」
「な、い」
なんと、ホームレス?
「えっと、ないんだったら今度うちに来ません?」
「あ、な…たの?」
「はい」
「あ、なた‥は」
「あ、すいません俺は鷺山憲也といいます。」
嵐は過ぎ去り、また猛烈な暑さがやってきた。蜃気楼が景色をぐちゃぐちゃに曲げる。
そんな中、おれはよしのさんと一緒に家に帰った。
「え〜狭い家ですが、だっけ?あばら家ですが?まあ上がってください」
「は…い」
お茶を沸かして淹れる。そして出す。
彼女は暑かったのか、すぐにお茶を飲みほした。僕は微笑みながら見て、そして、
「えっと、ウチないんですよね、だったらどこか当てができるまでうちにいていいですよ。」
「い、いい、ん…ですか」
「ええ、」
こんな美人と一つ屋根の下とかすごくテンション上がりますから
「じゃ、俺バイト出ますんで、」
「お、お気、を、つけて」
「はい、家のものは好きに使っていいですよ」
(なんなんでしょう。)
よしのは己の心中を思う。
(あの人は私の旦那様ではないのに…)
実は彼女の微笑みは、最初と二回目の出会いのときに向けられていたが、彼は嵐でそれどころではなかったため、微笑み返すという大事なプロセスが抜けていたし、彼が掛けた声も嵐でよく聞こえてなかったし、微笑みに対するものではなか
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