「ふぅ……」
真斗は縁側でお茶を飲み、息をつく。もうだいぶ肌寒い。彼の体を温めるのは手の中にあるお茶くらいだ。そのぬくもりを大切にしなければならない。
ふと遠くから人の足音が聞こえてくる。どかどかとしたものでなく、彼女の着物の裾が床にこすれたものだ。真斗はそちらに顔を向け、ゆっくりと微笑む。
「あぁ…絹代、やっと来てくれたね、近頃は寒いからしっぽが待ち遠しかったんだ。」
「あらあら、そんな情けないことおっしゃらないでくださいな。」
少し困ったような顔で絹代は言う。そう言いながら彼女はしっぽを僕に巻きつける。
「ふぅ…」
上質な毛皮の温度はまさにひと肌。このまま寝てしまいたくなってしまう。すると、しっぽはするすると彼の体から離れていく。
「おいおい、なんでそんないじわるするんだい?」
「こんなところで寝たりしたら風邪ひきます。奥の布団をお使いなさいな。」
彼女はお姉さん然とした様子で言う。
「あのね、昨日の今日で澄まし顔されても笑いしか出てこないよ?」
「あっ…あれっ…あれはっ…!」
途端に彼女の顔は真っ赤になる。若干内股になりながら拳でぽかぽか叩いてくるのが微笑ましい。
「もうっ…あれは真斗様があんな…」
若干下を見ながらちらちらとこちらを見る絹代。真斗も昨日は若干昂ぶりが過ぎたとは思う。
あの夏から数か月、ある夜、寝てる間に急に重さを感じた真斗はびっくりして目を覚ました。母のように優しかった絹代が顔を赤くしながら荒い息で覆いかぶさってきていたのだ。その様子は発情した雌か、はたまた白痴か。ともあれ彼女は真斗の寝間着をはぎ取り、彼が気絶するまで徹底的に貪った。今でも話題に乗せると彼女は顔を真っ赤にしてうつむき、うんともすんとも言わなくなってしまう。
そんな夜が明け、彼女は彼に謝罪した。自分がどういう存在なのか、どういう目で彼を見ていたか。なにより、彼をどう思っていたか。すべてを白状された彼は彼女の気持ちを受け取り、そして結婚という形で応えた。
そうして季節は巡り…
「絹代、絹代、『あんな』とはなんだい?自分から誘ったんじゃないか」
「そ、それは、その前の日も凄かったから…」
「うん?その日も君から誘ってきてたよねぇ?」
「うぅ・・・」
いよいよ言葉に窮した様子の絹代。実のところ絹代が誘わなくても自分から赴く予定だった真斗にとっては、この会話は彼女の赤面を見る以上に意味はない。そんなことを知ってか知らずか、彼女は言い訳を繰り返す。それを真斗はことごとくさばいていく。いよいよ彼女は何も言えなくなってしまった。赤面、涙目、反抗的視線と、ある意味出来上がっている彼女に真斗は決定的な一言を投げかける。
「あぁ、もぅ、絹代はかわいいなぁ」
「っ!?」
もう彼女はこっちを見てもくれなくなってしまった。今すぐにでも襲ってやりたいと思うが、まだ日も高い。ここは空でも眺めて我慢しよう。
彼は空を見上げる。秋空は青く、遠くにいわし雲が見える。視線を落として竹矢来の向こうを見るとそこには枯れ木の森がみえる。
(ああ、今夜も楽しみだなぁ…)
数秒後、彼は我慢できなくなった絹代に抱えられ閨まで連れて行かれ、夕食も摂らずに交わり続けることにことになるが、それはまた別の話。
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