「ふぅー、こんな感じかな」
ベランダに立たせた笹竹を少し離れて眺める。夕暮れの橙色が笹の葉から少し漏れるのが目にしみた。どうしてこんなことをしているのかというと帰宅途中に彼女から連絡が届き、知り合いの竹屋から笹竹を貰って来てくれと言われれたからだ。
「すいません。お疲れの所に電話をしてしまって」
「いやいや、こんな事では・・・・どっちかって言うと精神的の方がダメージあったかな」
帰宅の道中をこの笹竹を担いで歩く様を、すれ違う人すれ違う人に笑われたしまう。勿論その時は逃げるように帰って来た。
「しかし、今日は七夕だったのか。仕事柄か日にちには疎いからな」
「それだけ旦那様は働いているんですよ。今日は少しお早めにお休みになりますか?」
不安そうな表情に変わった彼女に心配ないと促す。上を向くと夜になりかけの空が広がっていた。そしてふとした事を思い出した。
「そういえば七夕ってどんな感じだっけ? 天の川のせいで別れたってのは解っているんだが・・・・」
「・・諸説あるのですが確か、空の皇帝の娘である機織りの乙姫と牛引きの彦星がいまして二人は恋人同士。でも至るところでイチャコラしているのを皇帝に見つかって二人は離れ別れになってしまうんです。」
「へぇー、・・・・ん?あれ?天の川は」
「それは皇帝の業です。ただ離れさせただけでは再びイチャコラで仕事が疎かになってしまいますからね」
「・・・・何時の時代も親はある意味凄いなぁ」
「だけど皇帝の考えは上手く行かずに終わります。乙姫は悲しみのあまり機織りはせず涙を拭う日々で、彦星も仕事に身が入らなかったそうです。」
彼女がそう言い終わった時、家の中から時計の音が響き渡った。
「そろそろ晩御飯の時間ですね。短冊にお願いを書いてご飯にしましょ」
『お父様。私はあの方がいないと生きている意味がありません。どうかあの方に会わせてくださいまし』
「自分の可愛い娘の願いで仕方なく皇帝は天の川に1日だけの架け橋を掛けたのです。それを織姫は大いに喜び彦星に会いに行き、1日の愛を語ったと聞いています」
「ロマンチックだね。今の世界にはピッタリな日だ」
「えぇ、だから今日は愛し合う仲を確認するかのように身体を会わせるのが最近の七夕なんですよ」
そう言って彼女は身に付けている衣服を脱ぎ捨てていく。勿論、自分もなにも言わずに行動に移す。外には立て掛けられている笹竹。その中で2枚の短冊が横に並ぶように設れていた。
【愛する人と共に過ごせますように・・・】
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