「アルバイトをすることにした」
学生といえど社会経験は必要だ。学校でいくら勉強ができるからといって、実際に働いてみなければ分からないことというのは山のようにある。この冬休みを使って、そういった経験を積んでおくことにしよう。
俺はパソコンを立ち上げてアルバイトの募集を探す。
「うーん、あんまりいいのが無いなぁ」
探してはみるものの、俺の希望に沿ったものは中々見つからない。肉体労働が出来る体力は持ち合わせていないし、コンビニやレストラン店員などもやや内向的な性格である俺にはあまり向いているに思えない。塾講師なども同様の理由で却下だ。だがバイトの大半はそういった業務がほとんどである。
選り好みしている身分でないことは重々承知しているが、それでも少しは自分に合ったものを選びたい。だがそれも諦めかけていた頃、とある広告が目に飛び込んできた。
「新感覚マッサージ店、"A Massage of Resurrection"において事務員のアルバイトを募集しています。来てね♪」
うむ、どうやら場所は割りと近所のようだ。時給も悪くないし、事務員ならブラックということもないだろう。かといって暇が出来るほど楽とは思えないが、デスクワークが主な業務なら俺にも割りと出来る気がする。よし、これに応募してみよう。
となれば早速現場に急行しなくては。募集人員が増えてあぶれては元も子もない。俺は全速力で駆け抜け、店の扉を開いた。
「すいませーん、アルバイト募集を見たんですが」
店の中は清潔感が溢れ、綺麗かつ分かりやすい単純な作りになっていた。白を基調とした色合いは訪れた者に安らぎを与える。店の中を眺めているうちに奥の方から一人の魔物が現れた。
木の葉を主としたデザインの服装に、ところどころに見える金貨や小判の草食、そして栗色の髪に丸い尻尾と耳、確か刑部狸という種族だろうか
「はーい、じゃああちらの個室で面接を行うので奥へどうぞー」
可愛らしい笑顔で案内され、俺は案内された個室に入る。俺はてっきり椅子と机が並べられた質素な部屋をイメージしていたのだが、その予想は大いに外れた。
なんと部屋の中央にはベッドが鎮座しており、その横にはいくつかの瓶が並べられた棚が設置されていた。一瞬俺は部屋を間違えたものと思い慌てて外に出たが、先ほどの刑部狸に「あ、その部屋で合ってますよー」と言われ戸惑いながらも部屋に戻る。
一つだけ置かれた椅子に座って待っていると、新たな魔物が現れた。黄色と緑が入り乱れる派手な出で立ちに、人であるならば誰もが一度は夢見たであろう翼を両腕に持っている。何より、その体躯からは時折電弧のようなもの飛び出していた。
サンダーバードだ、まさか日本にいるとは・・・。
「おー!あんたがバイト君か」
「はい、よろしくお願いします」
「アタシはキャパシ、一応店長ってことになってる」
キャパシと名乗ったサンダーバードは自己紹介をしつつ中央のベッドに腰掛る。恐らく客用のベッドだろう、いいのか?もしかするとあまり細かいことを気にしない性格なのかもしれない。
「いやー、アタシもこんなことやるつもりはなかったんだけどね。それがあの狸に出会った途端に面白いように話が進んじまってさ。ちょっと電気を流してやったら"これは商売になりますよ!"だと。金の亡者ってのはああいうのを言うんだろうね。でもいざ始めるとなったら人手不足だってんだから、抜けてるよなーアイツ」
「あ、あの面接は・・・?」
「ん?ああ、面接ね。うーん、アタシって堅っ苦しく根掘り葉掘り聞きまくるの好きじゃないからなぁ・・・まぁ悪い奴じゃなさそうだし採用でいいよ。仕事の中身は釜子―さっきの狸ね―アイツから聞いてよ」
思った以上にあっさり終わってしまった、しかも採用らしい。面接がなぜこの人に任せられているのだろうか。どうせなら面接も釜子というあの刑部狸がやった方が良いのではなかろうか。
まあそんなことを気にしても仕方あるまい、とにかく今は採用を喜ぶべきだ。仕事内容を釜子さんに聞きに行こう。
そう思って席を立ったとき、キャパシさんが俺を呼び止めた。
「このまま終わるのも面白くない。せっかくだからアタシの得意技、受けていきなよ」
そう言ってキャパシさんは俺の身体にしがみつき、強引にベッドに引き倒す。俺はすぐに起き上がろうとしたが、横に立つキャパシさんに翼で押さえつけられ身動きがとれない。ふかふかした羽がとても気持ちいいがなんて力だろう。
「ほらほら暴れるなって!ほらいくぞっ!」
掛け声とともにキャパシさんの身体が閃き、発せられた電撃が俺の身体を突き抜けていった。その途端、俺は一切の力を込めることができなくなった。もう彼女が押さえつける必要もなく、俺はもがくことはおろか指先すら満足に動かせない。
そ
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