「おーい、ハルちゃーーん!」
気持ちのいい青空に響くその声と共に草原に薄めの影が落ちた。ハルちゃんと呼ばれる島沢ハルトを含む少年達がそれに気付き空を見上げると、陽光を遮る小さな点が翼のをはためかせてこちらに向かってきていた。点はあっという間に翼と鉤爪をもつ人型の魔物へと姿を変え、華麗に草原へと着地を果たす。
「遅いよイリス」
少年の一人が憤慨した。
「だってみんな今日に限って場所を変えるんだもん!ハルちゃんは森で遊ぶとしか言わないし」
「ご、ごめんねイリス。ちょっと・・・っていうかすっかり忘れてて、アハハ・・・」
ハルトがバツが悪そうに頭を掻きながら謝罪の言葉を述べる。実に申し訳なさそうにみえる仕草だった。イリスはその様子を見るとやれやれといった様子で小さく溜め息をついた。
「ハルトっていっつもそうだよな。いつもは結構しっかりしてるくせに肝心なところがすっぽ抜けるんだ。この間なんて・・・」
「なんだっていいよ。さっさと始めようぜ、日が暮れちゃうよ」
少年の一人が文句を垂れ流していると、別の少年がそれを遮りながら言った。
「そうだよ。で、誰が鬼をやるの?」
また別の少年が集まっている皆を見渡しながら言った。
「イリスに決まってるだろ。一番遅れてきたんだから鬼、いつもそうしてるじゃん」
すかさず先ほどの少年が答える。その意見に少年たちはだれも異論を述べなかったが、聞いてもいない場所を必死で探し回った挙句無条件に鬼にされてはたまらないとイリスが抗議の声をあげた。
「ちょっと!私はこの場所を知らなかったんだよ!?遅れて当たり前じゃない」
イリスの言葉にハルトはふたたびバツが悪そうに俯く。それに気付いたイリスはハッとしたように口をつぐんだが、もう遅かった。
「じゃあイリスが遅れたのはハルトのせいだから、ハルトが鬼な!」
「あ、うん・・・いいよ」
当然そういった意見が湧き出てくる。ハルトもそれを拒否できる立場ではなく、甘んじてそれを受け入れた。
「よーし!みんな行けー!!」
一人の少年の合図でハルトとイリスを除く全員が四方八歩へ散らばりその身を隠した。ここは森、隠れ場所などそれこそ木の数だけある。少年達の姿は数秒と持たずにまるで見えなくなってしまった。
「イリス、どうしたの?隠れないとみんなを探せないじゃないか」
「うん・・・その、ハルちゃん、ごめんね?」
「別に気にしないでよ、伝え忘れた僕が悪いのは確かだし。それに僕、鬼って得意なんだぞ」
「あっ・・・そうだった」
イリスはそういうとハルトに背を向けて森の中を走り出した。ルールとして彼女は飛行を禁止されている、大空を長時間滞空でもされてしまえば、見つける手段が何もなくなってしまうからだ。だがイリスは少年達と同じようにすぐに姿を消さなかった。途中で立ち止まり、彼女はハルトの方を振り返る。
「イリス?」
「ハルちゃん・・・。その、かくれんぼが終わったらね・・・」
「う、うん」
「終わったら、みんないなくなるまで・・・森で待っててくれない?」
「え?なんでまた・・・」
「そのとき言うから・・・!」
そう言うとイリスは再び走り出す。今度は少年達と同じように瞬く間に姿を消してしまった。
「ハルトを鬼にした僕がバカだった」
最初に見つかり、そしてその提案をした少年が呟いた。
あれから十数分、ハルトはたったそれだけの時間で隠れた全員をものの見事に見つけ出したのだ。ハルトが成り行きで鬼を任せられるのは何も今回に限ったことではなかった。しっかりもので優しく、しかしやや気が弱くてどこか間が抜けている彼は時折何かしらヘマをしてその部分を突かれて鬼の役を押し付けられることがあった。何度も何度も捜し物を続けるたびに、いつしか彼の探索能力は誰よりも向上していき、彼の目から逃れられるものは一人もいなくなってしまった。
「はぁ〜、やっぱりハルちゃん強い〜!」
「じゃあ次は君が鬼だからね!」
ハルトが最初に見つけた少年に向かって、勝ち誇った笑顔でそう言った。
「ちぇ〜・・・」
「いいじゃん、ハルトって見つけるのは上手でも隠れるのはヘッタクソだもんな!」
「そうだよな、ハルトが最初に見つけた奴が鬼になって、そいつがハルトを最初に見つけての繰り返しだもん」
「うるさいやい!」
少年達から大きな笑い声を上がった。
その後もかくれんぼが続けられたが、鬼の順番はその予言通りハルトと彼が最初に見つけた者が交代が続いた。もっともそれすらいつものことであり、誰からもワンパターンに対する不平不満が上がることはなかった。
6回戦を終えてふと空を見上げると、空の色は青から橙に変わっていた。そのことに気付いた途端、少年達の顔に思い出したように疲れの色が浮かび上がった。
「うわ、もうこんな時間だったのか!」
「もう帰ろ?流石に疲れちゃった」
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