長身の男が自身に受ける魔力をたどりその発信源を求めて荒野の町並みを歩いてゆく。人魔問わずに跋扈するその町を見ては苛立ち、嫌悪し、そして不思議に思う。
奴は何をやっているのだ、この穢れた情景はなんだ。一体なぜ魔物がここまでのさばっているのだ、と。
男は今にも腰の剣を振るい蔓延る邪悪全てを浄化したかったが、その思いをグッとこらえて歩き続ける。今日はそのつもりで来たのではない、そもそも予定ではこの町に魔物など一人も残っていないはずだったのだ。
男がこの町を訪れているのは人を捜すためだった。今彼が受け続けている魔力がその手がかりであり、その発信源は目的の人物が持っている留め具のないブローチのような紋章だ。普段であれば、男がこの人物を捜すようなことはない。というのもその人物は大陸を縦横無尽に駆けており追いつくだけでも一苦労なうえ、そもそも会いにいく理由が全く無いからだ。ところが数日前、本来なら四方八方を動き続ける魔力の発信源がある地点でピタリと止まってしまった。男はその原因を考えた結果二つの例があげられた。まず一つは単純にブローチを持つ者が死亡した場合である。そしてその死因は殺されたか、餓死してしまったかのどちらかに限られるだろう。前者はその人物の実力から見て考えられる事態ではない、では後者か?それも否定せざるを得なかった。彼は何年も旅を続けている。飢え死にしてしまうようなら、旅立った最初の数日でそうなっているはずだ。となるともう一つは彼が一つの場所に定住した場合だ。状況から言えばこちらの方が滅法自然である。旅の途中で立ち寄った場所が彼の心を強く掴んだとか、長旅で目的を見失ってしまったとか、もしかしたら知り合った女性と身を固めたのかもしれない。理由などいくらでも思いつく。
だが、その人物については、男が知るあの少年に関しては、そのどれもが有り得ない事態だった。とにかくあの少年に何かが起こったのは事実、だが何が起こったのかはまるで予想がつかない。その真相を確かめるべく男はこの町にやってきたのだ。
男は道中あれこれと考えては見たがやはり予想はつかない、この町を見てますますその理由が分からなくなっていた。やはり本人を見つけ出して解明する以外に方法はなさそうだ・・・などと思案している間に男は町外れにあるテントにたどり着いた。その不気味さといえば実に形容しがたい。外側は紫一色で塗られ天辺からは二本の角のようなものが飛び出し、極め付きには昼間だというのに青い炎を点した蝋燭まで飾られている。
「近い、奴は間違いなくここにいる」
男は腰に剣があることを再確認し、矢が来ようと魔法が来ようといつでも弾き落とせるようにしっかりと警戒しながらテントに入っていった。中も負けず劣らずの不気味さが満ちており、外は連日続く雨で薄暗いものの、それ以上に闇が満ちていた。幸い矢も魔法も飛んでくることはなく、暗がりの中に小さな人影が見えるだけだった。男は目的の少年かと警戒を緩めかけたが、どうにもそうではないらしい。いくらなんでも小さすぎる、まるで幼い少女のようだ。
「客人かな?はてさて、どんなご用件かの」
可愛らしい声がテントの中に響いた。男の目が暗がりに慣れてくると次第に声の主の姿がハッキリと見えてきた。頭から生えた二本の角、栗色の髪に獣のようなその手足。それら全てを確認すればもう間違えようがない、彼女はバフォメットだ。
男の体に緊張が走る。これはかなり厄介な事になった、バフォメットに一人で勝てる人間などいるはずもない。こんな者が相手ではあの少年が敗北したというのも頷ける話だ。しかし魔物は人を殺さぬはず、あの少年が死亡したという説はこれで否定された。では一体奴はどこへ消えたのだろう。
「ここに、少年が一人来たはずだ」
男は動揺を出来る限り隠しつつバフォメット―レヴィに問う。
「生憎じゃが見ておらん、それにこの店は"少年"が来るにはちと早すぎるしのう」
レヴィは見当違いだ、自分は何も関係ないといった様子で面倒くさそうに答えた。だが男はそれを鵜呑みにするほど愚かではない。魔力の発信源は間違いなくこのテントの中だ。
「ほう、白を切るつもりか。だが私はなんのアテもなく憶測でここに来たのではない。下手な芝居はやめろ、こちらには証拠に基づく確信が―」
「その証拠とはこれかの?」
男が言い終わる前に、レヴィが留め具の無いブローチのような紋章を取り出し男に見せ付けた。男はそれを見て驚愕した。彼が受ける魔力の発信源は間違いなくそこからだった、つまりこのブローチは男があの少年に持たせたものに違いない。
「図星のようじゃな。だが生憎ワシはこれを友人から預かっただけなのじゃ、そいつは少年ではない。」
「ならばその友人とやらの居場所を教えろ」
男が語気を強めてレヴィに迫った。すでにその手は剣にかけら
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