「もし来るなら・・・どれぐらいでここに着く?」
クィルラが顔をこわばらせてレヴィに問うた。レヴィは相変わらずブローチをいじりながらしばらく考え込み、そして答える。
「受け手が怪しむまでは少なくとも2、3日はあるじゃろう。お主がその少年・・・あー、カルトスといったかの?そいつに襲われたのは昨日の話、とすれば明日か明後日には受け手が動き出す。そこからは距離の問題じゃな、近くに居ればその日の内にくるじゃろうし、遠ければそれ以上の時間がかかる。まあ一番長くかかって一週間後には来ると思っとった方がいいな」
クィルラはその場でしばらく沈黙した。
カルトスとは自分が思っている以上に厄介な人物だったらしい、純粋に魔物を狩ることを楽しむばかりか教団からマークされているとは。えらい物を町に持ち込んでしまった。ここは傍から見れば親魔物領となっている、教団に見つかればすぐに戦争が起こるに違いない。地図にも載らない辺境に位置し、これといった争いごともないため大した戦力も持たないこの町がどうなってしまうかは、考えなくても分かる。
彼女はこの町を好いてこそいないが、だからといって滅びていいなどという思考は持ち合わせている訳ではない。とりかえしのつかないことをしてしまったかもしれないという罪悪感と焦燥が、次第と彼女の心を支配していった。
「ど、どうにかできねえか!?なんとか来ないように細工する方法は・・・」
「無理じゃな」
ウィルラの懇願もむなしく、レヴィは即答した。
「お主はすでにこれをここに持ち込んでしまった。受け手は当然この町の場所を把握している。ではすぐにブローチを破壊すれば解決か?否じゃ、魔力が途絶えでもしたらそれこそすぐに怪しまれここへと向かってくるじゃろう。おまけにマークされていたカルトスはこの町に定住してしまった。もう旅立つこともあるまい、今更返そうが無駄というわけじゃ」
クィルラはがっくりと膝をついた。
万事休すか、このまま町が滅ぼされるのをじっと見続けているしかないのか・・・自分が呼び込んだ悪魔の手で。
「こんな辺鄙な場所にあったから人間と魔物がのほほんと暮らしていけたんだ。教団なんぞに見つかったら・・・チクショウ!」
「じゃが、わしはいっそ呼び寄せてみたいとも思う」
レヴィの言葉にクィルラは激怒した。
「ふっざけんな!てめぇはここをぶっ潰したいってのか!?」
立ち上がり鬼気迫る顔でレヴィに詰め寄る。レヴィは声を荒らげる彼女を静かになだめながら説明を続けた。
「話を聞け馬鹿者、誰がそんな物騒なこと考えるか。わしは気になることが山ほどあるのじゃ。そのカルトスという少年の正体、そいつが魔物のみを襲うように施した細工。そして・・・」
クィルラはレヴィの説明に聞き入っていた。確かにカルトスには謎が多すぎる。だがあの振る舞いを間近で見たクィルラには、それらはタブーのように感じられて仕方が無かった。それに首を突っ込まんとするレヴィを、彼女は心配していた。
「このブローチじゃ、魔物を滅ぼす百戦錬磨の者とはいえ、所詮はただの一兵士にすぎぬはず。わざわざこんなものまで持たせる意味は感じられん。カルトスが教団の中でどういった存在なのか、それが一番気になる。その謎さえ解ければ、あとは全てが解明できると思うのじゃ」
「けど、どうやって聞き出すんだよ。素直に教えてくれる相手じゃねえだろ」
クィルラとは裏腹に、レヴィはその質問に自慢げな笑顔で答えた。
「眠らせるなりなんなりしてそいつの記憶に入り込む。簡単なことじゃ、それともワシが信者一人に遅れをとると思うかえ?」
愚問だった。バフォメットは魔物のなかでもトップクラスの実力者、単体でも教団の兵士団を返り討ちにできるほどなのに、どうして負けると思えようか。その事実を再確認し、クィルラの心配は跡形もなく消え失せた。彼女はそれほどレヴィを信用していた。
「じゃあ、そのブローチ預けていいか?」
「願ってもないことじゃ♪お主に山に持ち帰って受け手が町に来なくなっても困るのでな」
心なしか、いや明らかにレヴィは喜んでいる。彼女は時折、こんなマッドサイエンティストじみた一面を見せることがある。クィルラでさえ、それには若干引いてしまう。
「いや、お主はもうここに住むんじゃったか?」
嫌な予感がしつつ、クィルラはそれを聞きとがめた。
「・・・どういう意味だよ」
「何を言うか、どうせ今晩はカルトスとやらとよろしく―」
「どいつもこいつもそればっかりか!なんだってんだよ!魔物と男がいりゃくっつけることしか考えねえのか!アイツはアタシを殺しに来たんだぞ!?どんな物好きがそんな奴と・・・」
レヴィを睨みつけ、肩で息をするぐらいの大声で言い放った。しかしレヴィは涼しい顔をしてそれを受け流す。
「それを変えたのはお主じゃ、話を聞くかぎりでは優しい
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