それから時間あっという間に流れ……
楽しかった学校際が終わると、すぐに面倒くさい期末テストが訪れるというのも毎年恒例となったものだ。この時期になると毎度の如く「お前勉強してないって言ってるけど実はしてるタイプだろ」とか「今回赤点取ったらレギュラーから外される……」などという生徒達の絶望の悲鳴が聞こえるのもいつも通りといったところか。
まぁ私はそうならないために日々コツコツと勉強してたから、そこまで焦ってはいないんだけどさ。
「やばいよやばいよ……これは本格的にやばいよ……」
だから今にも世界が滅亡しそうな表情をしている親友の顔を見るとつい気になってしまうというものだ。顔面蒼白で冷や汗をたらしながらブツブツとそう呟いている。
彼女、ランコははっきり言って絶望的なまでに頭が悪い。
タイチですらも「俺より頭が悪いやつは一人だけ断言できる、ランコだ」と言い張るぐらいの悪さだからね。
「今回はなにがヤバいって?」
「あっ、アイちゃん。実は……」
彼女曰く、今回の期末テストで赤点の科目を1つでも取ったら高校生活最後のテニスの試合に出させてもらえないそうだ。
学生たるもの本業は学業であって、部活は二の次でしかない。部活動に熱を入れすぎて、本業をおろそかになってはいけないものだ。それは誰でもわかる話だよね。
だから彼女は……典型的スポーツバカであるランコは焦っていたんだろう。
彼女がこの高校三年間のなかで一番力を注いできたものは間違いなくテニスだ。その最後を飾る、三年間の集大成とも言うべき大事な試合の出場権が自分の学力によって左右されるということに不安を感じているんだろう。
「ど、どどどどどどうしよう今から勉強したって絶対間に合わない……」
「ランコ、毎日復習とかシてないの?」
「復習とか一度もやったことないし……テスト前の勉強でいっつも乗り切ってきたから」
「…………」
すがる子犬のような瞳を私に向けてくるランコ。
あぁ、だいたい予想できるよこの後の展開が。
「おねがいアイちゃん!勉強教えて!!」
「そういうことだと思った」
「え、じゃあ……」
もはや予定調和のようなものかもしれない。
そういえば去年の期末テストもこんな感じのやり取りをしてたっけなぁと今更になって思い出した。
まったく……ランコは私がいないとダメなんだから。私はタイチがいないとダメなように、ランコには私がついてないとダメなんだよね。昔っからそうだったっけ。
「いーよ。親友の頼みだし、ね」
「ああああお願いしますうううう!!お礼ならなんでもするから!」
「いいよお礼ナんて」
そう口では言ったものの、私の頭の中ではとてつもなく崇高的なある事柄をずっと思い描いていた。そしてランコはその事柄の体験者になるだろう。
深く、底の見えぬ深淵なる思慮はただの人間にはわかるまい。私は私の意思でもってあることをやり遂げようとしているのだからそれは誰にも止めることはできないの。
神であろうと、悪魔であろうと、この世の如何なる万物たるものであったとしても私のこの深淵の意思を砕くことは適わない。
ああ、今からランコにすることを想像するだけで興奮のあまり変身が解けてしまいそうだ。
「それじゃあ今週の土曜、ウチで勉強会ね」
「ありがとう〜!!おやつはわたしが持ってくから、アイちゃんは何も準備しなくていいよ!」
「そこまで感謝されることなのかなぁ」
「アイちゃんは私の救世主ッ!なの!」
私に勉強を教えられるだけで、さも赤点を免れたかのように勘違いしているようだけど最終的には自分の実力を信じるしかないのを忘れているんじゃないだろうね?
と思ったけど、さすがにそこまで言うのは口うるさすぎるので言わないことにした。
「多分タイチもイるだろうけど気にしないでね」
「あ、タイチも勉強的な?」
「ん……まぁそんな感じかな」
あの日以来タイチは私と一緒にいる時間が多くなった。そりゃ彼氏彼女の関係だから当たり前えっちゃ当たり前なんだけどさ。
タイチの親は結構な放任主義らしく、息子の帰りが遅くてもとやかく言うことはしないらしいので私たちにとっても好都合というわけだ。最近の私たちといったら、放課後は屋上でセックスするか家に行ってセックスするかのだいたいどちらかだから帰りも遅くなってしまうのは仕方のないことで……
ウン、仕方ない。たっくさんの精液を注いでもらってこの上なく幸せになってお腹一杯になって。
全部当たり前のことを当たり前のようにやっているだけだよね。何もおかしいことじゃあない。
……むしろおかしいのは皆の方なんじゃないかな、って最近思うようになってきた。こんなにも気持ちよくて幸せになれて愛し合える行為があるというのに、やれ勉強だやれ進学だ
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