「えーただ今をもって学校祭一日目を終了いたします!!おつかれさまでした!明日もまたよろしくお願いしまーす!」
時刻は夕方に差し掛かった頃、校内放送がけたたましく響き渡る。
多忙に追われてんやわんやとしている間にいつの間にか終わってしまうほど今日は時間が流れるのが早く感じられたものだ。現に、クラスメイトたちももう終わり?とでも言いたげな表情でパスタを茹でている。
我が3年C組のメイド喫茶は大成功を収めているのは間違いない。この売り上げを見れば一目瞭然だろう。よしよし、上々だ。このまま残りの日数も変わらず盛況し続ければもしかすると売り上げ一位も狙えるかもしれないね。
「おつかれアイちゃ〜ん。すっごい人だったねぇ」
「おつかれランコ。それもこれも全部ランコがこの案を出してくれたカラだよ」
「でも指揮を執ってくれたのはアイちゃんだから手柄はアイちゃんのもの!」
もう、手柄とかそんなの気にしてないのに。
私はただ、みんなと楽しく過ごせればそれでいいのさ。楽しい思い出を作って、後で振り返ることに意味があるってものだ。
みんなが忘れてしまわないような、とっても素敵な出来事をやりたいだけ。
「いや〜この学校祭でより一層みんなと仲良くなれた気がするよ。そう思わない?」
「ソウだね。今だって、私が先導しなくテモみんな自発的に掃除してくれているし」
「でも私的には一番メインを飾っていたのはアイちゃんだね」
「私?」
「うんっ!だってアイちゃん、そこらへん歩くだけですれ違う人みんな振り向いちゃうほど色っぽいんだもん。なんかアイちゃんのホンキを見た!って感じ〜」
別になにも意識しないでフツーに歩いてただけなんダケドネ。むしろひとりで勝手に汗だくになってたから、汗っかきの多汗症女として見られているんじゃないかとヒヤヒヤものだったよ。
ただ、まぁ……あえて言うなら我慢しすぎてたせいでちょっと濡れてたのがキメ手だったのかもしれない。フェロモンをむんむんに振り撒き男の劣情をさそうような気配を纏っていたのは確かだ。
ふふ……それを直に当てられていたタイチはどんな心情なんだろうネェ……うふ、フフ……
「ゴメン、ちょっと用事あるから後のことまかせていい?」
「お安い御用!掃除終わったらみんな下校させちゃっていいかな」
「それでお願い。じゃ、また明日ね」
「じゃぁね〜」
私はランコにばいばいの手を振り教室を後にし、更衣室へと向かう。そしてメイド服を着替えいつもの制服に戻ると、一際大きな深呼吸をして高まる胸の鼓動を落ち着かせることにした。
トクンッ……
トクンッ……
……ドクッ
心臓のポンプがひとつ、ふたつと拍動する度に私の血管を流れるマグマがとてつもない勢いで全身を駆け巡る。足先、手先、頭頂までを一周すると、全身が燃えるように熱くなり、それに比例して発汗も誘発されるのだ。
その汗は今までかいたどんな汗よりも粘度が高く、ほぼ半固形状のゲルみたいなものに近い。私は体表を覆い尽くす汗を指でつかむとなにを思ったのかそれを口に入れてみた。
……甘い。
汗のしょっぱさなど微塵にも感じズ、口いっぱいに広がる桃のような甘みは疲れたこの体をリラックスさせてくれるかのようだった。自分の体から出た老廃物を再び自分の体に戻すという正直自分でもなにやってんの、ってツッコミたくなる行動だけど、どうしてか私は無意識にそうすることが正しいものだと思い込んでいた。
「聞こえる……みんなが帰る音が聞こえる。だんだんと静かになっていって……学校からどんどん人が少なくなる……聞こえる、キコ、エル」
もはや私の耳は、聞こえるはずのない音すらも聞こえるようになっていた。
更衣室で着替えているというのに生徒達の下校する音が聞こえる。
職員室で先生方が何を話しているのかが聞こえる。
もはや、ただ耳が良いということでは済まされない。音原から位置を逆算し、どこに誰がいるかなんて芸当もできるようになっていたのだから済まされないのは当然だ。
だけど、そんなことはどうでもいい。
私が今一番気になるのは、ある一つの音だけだった。
生徒たちが下校する中、たった一つの音だけがその真逆の方向へと足を進めている。
カツン
カツン
カツン……
普段生徒が使うはずもない第二階段の、さらに上へと続く階段。そこを上っているひとつの足音が私の心を捉えてやまないのだ。
私はいてもたってもいられず、全身の汗を拭うことなくワイシャツを着て、更衣室を後にするとその足音がする第二階段へと走り、そして上へと上るのであった。
バァン!
錆びついたドアを思い切り開ける。
そこは屋上だ。
普段は生徒の立入は原則的に禁止されているが、学校祭期間中は物置として
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