本音の罪

 数日後。
 大斧を抱え街道を歩く男が一人。
 その巨躯に担がれているものは斧と呼ぶにはあまりにも無骨で巨大な鈍色の塊である。雨に打たれ傘もささずに歩くその姿ははたから見ると不審者そのものであり、道行く人々もまた斧を担ぐ大男との距離を露骨に開け、ヒソヒソと陰口をたたいているようである。
 当の本人であるロズはそのような陰口などなんら気にも留めずに、斧の刃の部分を傘代わりにしながら職場へと向かうのであった。

コンコン
コンコン

「あーい、今開けるから待って……ってなんじゃそりゃ!」

 看守室で一人雑誌を読みながらくつろいでいたミック。時刻は朝8時頃だ。
 時間帯的にロズが出勤しに来たのだろうと思い、内側からかけていた鍵を開けようと扉へと赴く。古ぼけてはいるが鉄製の頑丈な扉は鍵がなければ決して開けられない仕組みになっており、さすがは死刑囚を収容するだけの場所ではあるということだ。それなりに警備はしっかりしているようである。
 扉を開けたミックの眼前にはいつもどおり同僚のロズが見えたのだが、その様子はいつもとは違っていた。
 いや、厳密に言うとロズはいつもどおりである。しかし、ロズの抱えるその巨大なモノが浮世離れしたというべきか、あまりにも大きすぎるが故に驚きを隠せるはずがなかった。

「なんだそれ!?」
「……これが前に話した骨董屋で貰った斧だ」
「それは斧じゃねぇ、丸太だ!鉄塊だ!斧の形をした何かだ!!」

 ミックが慌てふためいているのも無理はない。
 何故なら、ロズはその大斧を地下牢へと持ち込もうとしていたのだから。
 地下牢の鉄扉と大斧との大きさを比べてみても明らかに斧の方が大きく、扉のサイズに収まりきれるものではない。
 だというのにもかかわらず、ロズは無理やり斧を地下牢へ入れ込もうとしているものだから地下牢の管理者であるミックが青ざめないわけがなかった。
 ただでさえ大柄で力のあるロズが、狭い扉目がけて大斧を入れ込もうとしているのである。その行動から予測できる結果は考えずともわかることだろう。

「おいバカやめろ、んなモン入るわけねーだろうが!」
「……俺は今までお前のわがままを散々聞いてきたんだ。たまには俺にもわがままさせろ」
「それとこれとはっ……って、おいぃ!?」

 ミックの制止や虚しくロズはその巨躯をずん、ずん、と一歩ずつ歩み進める。
 肩に担いだ斧の刃は下を向き、少しでも面積を小さくさせようとしているのだろう。しかし、その大きさゆえにあまり意味のある方向ではなかった。
 刃先が分厚い鉄の扉に当たると、その部分がひっかかりロズの足が止まる。
 ミックはその光景を見て「早く引き返せ!」と怒鳴っていたのだが、そんなことはいざ知らず、依然として巨体の行進は止むことを知らない。
 突っ掛かりがうっとおしく思い、ロズは勢いよく斧を引くとなんと驚くことだろうか、鉄製の分厚い扉がスルリと切れてしまった。およそ鉄が生じるはずのない亀裂を描きながら刃先の進行を許してしまうと、鉄は呆気なく切断され斧が通過する形となる。

「あああああ!!なんてことしやがる!これじゃ鉄じゃなくてチーズケーキだ!こんなにキレイに切れちまってよぉ〜!」
「……俺はガトーショコラの方が好きだぞ」
「うっせ知るか!おいロズ、後でちゃーんと直しておけよ」
「わかっている……それにしても手入れしていないのにこの切れ味とは……」

 その恐るべき切れ味たるや、以前ロズの指に切り傷をつけたものの比ではなかった。
 分厚い鉄をいとも容易く切断してしまうその切れ味は最早ただの刃物と表現していいものなのだろうか。鉄を切れる、ということはいうなれば岩石や鉱石すらも切ることができてしまうのだ。そのような離れ業を手入れもしていない斧がこうも容易くできていいものなのだろうか、とロズは思う。

 なぜロズはこの『免罪斧』を地下牢に持ってきたのかというとそれにはある理由があった。
 まず一つに、他に置き場所がなかったという点だ。
 ロズの家はごくごく普通の小さな木造の家だ。それほど広くもなく、人一人が住むくらいが丁度いい広さの一軒家である。それゆえに物置はなく、『免罪斧』を置く場所が確保できなかったのである。ただの蒔割り用の斧ならば何の問題はない。しかし、特に用途も見出せない装飾用であり、なおかつこの大きさである。はっきり言って一人用の住居に置くのは邪魔だったのだ。
 それならばいっそ、自宅の次に長い間滞在している場所、地下牢に持っていけばいいじゃないか、ということに至ったらしい。流石に看守室や独房には置けるスペースはないが、最奥にある死刑執行室ならばそれなりの広さもあるし、武器庫もあるので一番適していると思ったのだろう。
 そして、もう一つの理由として、斧の手入れ道具が揃
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