【ある女鍛冶師がいた
その鍛冶師は指折りの名工で都各地から武器製作の以来がくるほどであった
ある日のこと、製作途中の武器を壁に立てかけておくと
そのふもとを彼女の愛犬が歩いていた
たまたま運が悪かったのであろう
武器は犬の方向へ倒れ、愛犬は真っ二つに切断されてしまった
悲しみに暮れる鍛冶師
だが彼女はあることに気が付く
愛犬を殺した忌々しい武器がとても美しく見えたのだ
今まで作り上げてきたどの作品よりも格段に
それから彼女は実験を始めた。まずは虫、魚から
次いで野良猫、野鳥、家畜と彼女の武器製作は次第に発展していく
それにつれ彼女は確信する
製作に使用する命の大きさが大きいほどより良い武器になるということに
そんな噂を聞いた領主はすぐさま鍛冶師に依頼を出す
見たこともないような極上の武器を作ってくれというものであった
鍛冶師は快く承諾し武器製作に取り掛かる
今まで培った技術を惜しみなく発揮する機会だ
しかし、彼女はつまづいた
いくら上質な素材を使用しても、いくら新鮮な命を刈り取っても
領主に献上するような武器が出来上がらない
彼女の顔に焦りが見え始めた
期限まであと僅かしか残されていない
期限までに完成することができなければ恐らく自分は打ち首だろう
しかしむやみに焦って中途半端な作品を献上しても同じことになる
どうすれば……
そこで彼女はひらめいた
期限の日の朝
弟子が鍛冶師の様子を伺おうと工房に顔を出すと
そこには三つのモノが転がっていた
弟子は大慌てで仲間を呼びに去っていく
そこにあったものは
一つは、武器
一つは、胴体
一つは、頭部
それら三つが血塗れで転がっていた
その武器は鍛冶師の遺作にして最高傑作になったという】
「いらっしゃいませ……ようこそ"ぬけがら屋"へ。どうぞごゆっくり御覧くださいませ。
オヤ……武器防具を御探しですか。それではこちらへどうぞ……
身近な日用品から戦闘用まで数多く取り揃えておりますゆえ、お気に召されるものがございましたらいつでもご相談ください。
ホウ……それをお手に取りますか。なかなか良い趣味をしております。
その斧は『免罪斧(メンザイフ)』と呼ばれる業物の一つです。長らく手入れをされていないものですので切れ味はありませんが……お客様自身が手入れをなされば斧はそれ相応に応えてくれるでしょう。
元々は装飾用に作成された一品とお聞きしますが……その出生には色々といわくのようなものがありまして……ええ……
お代ですか?いえいえ結構です……無料で提供してさし上げますよ。いいのですいいのです。
普通の一般客であれば多額な金額を頂く算段でしたが……どうやらお客様はその斧に選ばれた資格ある者、のようですので。ええ、そうです。
どうぞお持ち帰りくださいませ……どのように使用するかは彼方次第です。
それでは吉報をお待ちしております……」
―――――
バヅンッ
音が響く。
それは何かを切断したかのような音だ。
ロープのように細くはなく、かといって丸太のように乾いた音ではない。肉のように瑞々しくて、心のどこかに不快感を感じさせるような、そんな音。
その場所は日の光も入らぬほどに暗く、冷たく、そして圧倒的に何もない。
石造りの小さな四角い小部屋が五つほど並び、入り口部分には全て堅牢な鉄格子が設置してある。南京錠が数個に分けて施錠されているところを見ると相当厳重に管理されていることがわかる。
最奥には少し開けた小部屋がもう一つあり、この小部屋は他の部屋と比べいくつか異なる点があるようだが――
全ての部屋に共通しているのは日の光が入らない地下、冷たい石造りの外壁に堅牢な鉄格子。これらが意味する場所とはただ一つ。
「…………」
地下牢。
外部とは遮断され完全に隔絶された世界である。
太陽を拝む窓すらなく、あるのはネズミが通り抜けするような排気口や排泄物を落とす穴くらいなものだ。
どこからか水の滴る音が聞こえてくるのを察するに水道管が錆びついているのだろうか。隅には薄汚れた布やネズミの糞が転がっており、さらにはウジが湧きはじめる糞まであって不衛生極まりない。
ここまで聞けばよくある普通の地下牢と思うであろう。だがしかし、この地下牢はもう一つ特別な意味合いのある場所でもある。
「…………ふう」
この地下牢には計七つの部屋がある。
一つは看守室。独房と作りは似ているものの明かりは灯るし、綺麗な水道も通っている。何より部屋の奥から続く階段を上れば、唯一外界と繋がりのある部屋なので、地下牢にある部屋だが実質は地上の一部分と言っても差し控えはないだろう
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