隣国との会談を終え、ヴァルレンへと戻る支度をする。
帰り際に国王から労いの言葉を少々貰ったので心なしか気負っているものが軽くなったような気がする。どうやら昨日の姿はぎりぎりの所で見られていなかったらしくヒヤヒヤしたものだ。
しかし、本当にこの国はいい国だ。唯一、呆れるほどに戦争への危機感が感じられないところを除けば真に住みやすい国家とはこのようなことを言うのだろう。緑あり、活気あり、人情あり。ヴァルレンもこのような他国の良き部分のみを吸収しより良き国へと発展させたいものだと思う。王として私はまだまだやらなければならないことは山積みだ。
城門を出ようとしたところで、私の頭上に小石が一つ落ちてくる。上を見上げると、アンジェリカが自室の窓から顔を出し素敵な笑顔で中指を立てていた。どうやら少し早く魔法が切れてしまったみたいだが、まぁ私が国を出るまであれから一度も姿を見ることが無かったから上々な結果だろう。
中庭の花壇も綺麗に整っていたので良い働きをしていると褒めて遣わしたい。あまりにも綺麗な中指の立たせ方だったものだから、私は親指を下に下げ上品な挨拶を済ませる。アンジェリカの額には青スジが浮かんでいたような気がしたが特に関係ないから気にとめることはしなかった。
そうして私は数名の家臣と主に馬を走らせこの国を後にする。
未だ上着の内部で静かに蠢く下着を着ながら、私は馬を走らせる。
―――――
「姫、隣国の様子は如何でしたかな?」
「かの国は我々の同盟国であるにもかかわらずなかなか戦争に参加してくれん」
「国王様並びにアンジェリカ様はご健在で?」
「流行の貿易品を取り入れたいのですが」
ああ、もううるさいうるさい。
自国に閉じこもってひたすら国の金を啜る貴様ら成り上がり大臣の面倒など誰が好き好んでやるものか。コイツらがヴァルレンの未来を握っている存在でなければ私は今すぐにでもこの下衆どもを解任させることだろう。
これならば、まだ私の遠征に付いてきてくれる小数の大臣どものほうがよほどましに見えるというものだ。
「それらは全て明日に会議で話しましょう。今日は休ませてください」
遠路はるばる帰ってきたというのに、こいつらは私に労いの言葉一つかけてくれぬ。
……いや、強き指導者であるためには労いの言葉など不要なのかもしれないな。弱きを見せず、常に凛として振る舞い気丈に導く王としての素質を研かなければならない。
私はもうただの姫ではないのだ。甘えていられる時期は終わったのだ。
と、ふと軽いため息をついていると、後方から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「姫様……いえ、王代理様でしたな。遅れまして申し訳ありません」
「おお、またいつものだな?」
「ええ、遠征に行っている間は国王様にお渡しすることが出来なくてまことに心苦しい想いでございました」
「すまなかった。いつものように私自らお父様へ渡して置こう」
「よろしくお願いいたします」
大臣の一人が国王宛、いわばお父様宛への小さな小包を渡してきた。常日頃から貰っているものなので私はその小包を受け取ると懐にしまいこむ。
これの中身は……後でわかることだろう。
あらかた用事を済ませたところで私は執事を呼ぶ。
「執事、執事はどこだ」
「ここに。姫様、会談お疲れ様でした」
「返事が遅い。私の執事とあろう者が私にいち早く話しかけてくれずになにが執事だ」
「申し訳ありません。姫様が大臣様と会話していたもので邪魔になるかと思い」
「言い訳はいらない。執事、お前にすこし話しがある。私の部屋で待っていてくれ」
「かしこまりました。姫様はどちらに?」
「少し……お父様に会ってくる」
―――――
お父様に会うのは久しぶりだ。
私としては毎日でも会いたいくらいなのだが、そうはいかない。王代理としての業務も忙しいことが理由でもあるが、それとは別にもう一つ、面会してはいけない理由というものがある。
お父様を蝕む病魔はヴァルレンお抱えの医者ですら原因がわからないというのだ。どこが悪いのかもわからず、どう治療していいのかもわからず、しかし病魔は少しずつ少しずつお父様の体を蝕んでいく。もしかすると、未だ発見されていない未知の感染症である可能性もあると言われている。
それを危惧した大臣達は、未知なる疫病を流行らせてはならないようにとお父様を別宮に移し他の者との接触を極力避けるようにしたのだ。聞こえは悪いが、言うならば隔離である。
お父様自身も自らを隔離することに反論はせず、現に今現在、お父様以外には誰一人として謎の疫病は発症していない。これが今出来る最善の行動だと皆口をそろえて言うが……
私は別宮の見張りの兵士に話しかける。
「姫様、お
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