潜伏

【少女はお腹がすいていたのでパンを食べた。
口の中がパサパサになったけど美味しかった。

少女はお腹がすいていたので野菜を食べた。
ピーマン以外は美味しかった。

少女はお腹がすいていたので鳥を食べた。
小骨がうっとおしかったけどなかなか美味だった。

少女はお腹がすいていたので土を食べた。
ミネラルが豊富らしいのでとりあえず飲み込んだ。

少女はお腹がすいていたので石を食べた。
美味しくはなかったけど一応満たされはした。

少女はお腹がすいていたので肉を食べた。
調達は道端で死んでいた人を選んだ。

少女はお腹がすいていたので野草を食べた。
なんだかうねうねしてたけど意外と美味しかった。

少女はお腹が独りでに蠢いているのに気が付いた。
けれど気持ちが良かったので特に気にはかけなかった。

少女はお腹がすいていたので触手を食べた。
食べても食べても生えてくるのでいつまでも食べ続けた。

少女はお腹がすいていたので男を食べた。
男のソーセージとヨーグルトは一番美味しかった。

少女はお腹がいっぱいになった。
だからその幸せを他の人にも植え付けてあげた。】


「いらっしゃいませ……"ぬけがら屋"へ……
貴方もまた悩める者のひとり……さあ、その悩みを打ち明けて下さい。
ええ……ええ……はい、そうですか。それはそれは辛いことでしょう。
それで貴方は、恒久の平和を得たいと……なるほど、わかりました。
それではそんな貴方……いえ、彼女に最適な商品がございます。
こちら、『寓胎の衣』と申しまして女性用の衣服一式となっております……ハイ、そうです肌着から上着まで全てセットになったものです。
ただの衣服ではありません。当店で取扱う商品は何れも悩める人を真理へと導く力を持った神秘の道具。この下着もまた同様の効果があります。身に着ける者の精神を高め、より鋭敏な感覚を有することができることになるでしょう。
そしてこの『寓胎の衣』には更なるお楽しみがありまして……それはお客様自らが見つける方が趣があると思います。
代金はけっこうです。貴方のような珍しい役職の方に出会ったのは初めてでありますので……ええ……そのような大金はいりませんよ。
それでは使用の感想を楽しみにししつつ、
吉報をお待ちしております……」





※※※





 私の国ヴァルレンは侵略国家だ。
 恵まれた鉱石資源による武器の大量生産。発展した科学による新たなる兵器の開発。圧倒的な武力を持ってして他国を蹂躙し、奪えるものは全て奪いつくしてきた。
 捕虜の男どもは死ぬまで労働者として馬車馬のようなこきを使い、女どもは我が国の男の胎児を孕ませる。他国の血を薄めて少しでもヴァルレンのものとするために。
 ヴァルレンはそうやって領地を増やしてきた、人民を増やしてきた。
 そしてこれからも代わらず侵略と制圧を繰り返すのだろう。血塗られた歴史を機械的に、決められた行動のように繰り返すのだろう。
 私はこの悪逆非道で傍若無人の国を治めている。収めなければならない立場にあるのだから。



「で、伝令……ッ!!我が軍は今回も敗戦してしまいましたッ……!!」

 伝令兵の悲惨な報告が王宮内を木霊する。
 兵の周囲には国の大臣やら参謀やら数人が神妙な顔つきであごを擦り、さもこれは大変だ、早急に手を打たねばという意志を周りにアピールしているようだ。
 金色のカールを巻いたセンスの欠片もない髭が上下に揺れている。
 そしてその行為が見た目だけの行動であって、本心はまったく別のことを考えているであろうことは私はとうの昔に知っていた。
 私は兵の眼前に立ち威圧的に見下す。

「私が聞きたいのは"勝利"の二文字だけです。貴方達は毎度毎度、敗戦の報告をするために我が国の兵士になったのですか」
「そっ、そんなことは」
「貴方たち軍の連中はまるで危機感が足りていない。戦うことにしか能のない駄犬どもが一丁前に群れたと思ったら、いつのまにか負け癖がついているなんて笑えないわ。この負け犬が」
「しかしっ……」
「貴方に口答えの権限はありません。黙りなさい」

 そうして私は毎度恒例の罵詈雑言を伝令兵に言いかける。
 勿論こんなことをしたって何の意味もないことはわかっているけれど、国の姫という面子のためにも仕方がないことなのだ。ここで私が言わなければきっと、この場にいる者全員が負けるということに慣れてしまう。
 本来こういうのはお父様がやるべきことなのだけれど、場合が場合なだけに仕方がない。

「……まぁ貴方に言ったところで何の意味も成さないでしょうが。で、今回の敗因はまた例のですか」
「は、はいそうです!戦力では我が軍の方が圧倒的に上回っていました。ですがやはり今回もヤツを突破することは……」

 ああくそ、またアイツ
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