定着

「なるほど、農業の効率化には税を減らしていると――」
「その方が農夫たちも仕事に精が出るものなのだよ」
「参考までに覚えておきましょうか……しかし、我々は今までどおりの税額で政治を行なうことにしましょう」
「何故かね?」
「ヴァルレンの強靭な武力の発展には圧倒的に資金が足りぬのです。やはり我々は今までどおり、いや、更にこれからも税を徴収する考えです」
「いやはや、流石はヴァルレン王の姫、もとい王代理なだけある。今よりも更に税を徴収すると言いますか」
「国の為ならば如何なる犠牲を払うのもいとわぬのが我がヴァルレンの民。さしたる支障はないでしょう」
「こりゃまったく、恐れ多い……」

 あれから一週間が経ち、私は今何をしているかというと、同盟国との会談の真っ最中である。遠路はるばる馬を走らせ5時間半、私とその他大臣達は隣国に招かれ、こうして会議室で政治の話を会議しているわけだ。
 お父様曰く、この国はヴァルレンの傘下というわけではなく、私が生まれるより以前は幾度とわたる大戦を繰り広げてきた宿敵国らしい。この国の現国王は争いを好まぬ温厚者であるので、実質終戦という名目の休戦を申し出て同盟に参加した、とのことだ。
 確かに会談をしてみても、お父様のような偉大さや大臣のような気分の悪さは感じず、人当たりの良い普通の男性としか見受けられなかった。しかし、そのようななりでも、時折垣間見える鋭い眼光に只ならぬ雰囲気を感じざるを得ないものだから、やはり一国の国王としての気質があるようにも感じる。

「ではそういうことで。これからも良好な関係を育んでいきましょう」
「ああ、よろしく頼む。ヴァルレン王にもよろしくと伝えておいてくれ」

 握手を握りこれにて会談は終了した。
 大きなアクシデントもなく、無事に終えることが出来たので肩の重し取れた気分になる。
 今までお父様が会談をしているのは隅から何度も見たことがあったが、こうやって実際私が行なうのは初めての試みであったからな。流石に私と言えど緊張した。
 会議室に刺客が送り込まれたり。
 いきなり隣国の家臣の罠により殺されたり。
 ありとあらゆる想定をし、厳重に護衛をつけたのだがどうやらこの国ではそれは杞憂に終わったようだ。

「さて、ヴァルレン姫よ。この後何か用事はあるかね?」
「後はヴァルレンに帰るだけですが」
「今から帰るには夜も更けて危険だろう。この時間は野犬や淫魔がよく出没するのでね。今日は家臣たちと泊まって行くがよい」
「…………ではお言葉に甘えるとしましょうか」
「夕食と部屋は準備しておるので存分に堪能してくれ」

 あまり他国の世話になりたくないのが本音だが、お父様が築き上げた隣国との関係を悪化させたくはない。恩をつくるということがいかに外交において支障になるかは幼い頃からよく聞かされていたので反射的に拒んでしまうというものだ。
 そして、私自身あまり乗り気にならない理由はもうひとつあって……

「あと……まことに申しにくいのだが、いつものように我が娘と付き合ってくれんかのう」

 ほらやっぱり。大体予想はしていたけれどさ。
 まだお父様が健全だった頃、よく私はこの国に一緒に連れてこられていた。
 そんなとき、こぞって私に任されるのはこの国王の一人娘の遊び相手になってあげることだった。連れてこられるだけで何も出来ない退屈した私も、遊び相手がいるということに始めは心躍らせた事もあったが……
 今となってはその相手というのも厄介ごとでしかない。王の代理となった今では尚更だ。そのような面倒ごとは必ずしも行なわなければならない、というわけではないのだけれど……これも外交の為となれば断る事は出来ないものか。

「わかりました。では娘様は中庭に向かわせてください。私は先に行き待ってますので」
「おお、助かる。最近は一段ときかなくなって手を焼いているところだったのでね」

 本当はただ面倒ごとを私に押し付けているだけなのではないだろうかと思う節もあるが、今は何も言わず相手をしてやろう。
 どうせまたいつも通り喚きたてるに違いないから。





―――――





 中庭。
 柔らかい芝が丁寧に刈り揃えられており、ささやかなそよ風が私の髪をなびかせる。ここで仰向けに寝転がるだけで寝具などは必要の無いほどに安眠できそうな、心地よい場所だ。
 噴水や花壇、日時計なんてものも配置されており、いかに大事に手入れされている場所だという事がわかる。
 四方には城の壁が吹き抜け状になっているので、場内からでも用意に中庭の様子が伺えるし、逆に中庭からでも場内の様子を確認する事も出来る。
 ヴァルレンの城にもこのような中庭があればもっと華やかな城になっていたのだろうが、生憎そのようなものは設備されていない。私の城
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