忌壺『貪りの九十九』

【我が親はかの王の愚策で戦死した。
その亡骸を粘土に込めて、無念を込める。

我が妹はかの王に嬲られ自死した。
その亡骸を薪と燃やし、怒りを込める。

我が妻子はかの王の戯れで圧死した。
その亡骸を塗料として、絶望を込める。

我が怨念はかの王を呪殺した。
国は滅び何もかもが消え去ったが、壺だけは残り続ける】




「いらっしゃいませ……ようこそ"ぬけがら屋"へ。どうぞごゆっくり御覧くださいませ。
 オヤ……何か苛立っているご様子……それではこちらへどうぞ……
 身近な日用品から禁じられた遺物まで数多く取り揃えておりますゆえ、お気に召されるものがございましたらいつでもご相談ください。
 そうですね……その苛立ちを解消させる素敵な道具に心当たりがあります。この壺が『貪りの九十九』と呼ばれる古代霧の大陸の出土品の一つです。古代のまじない師が作り出した壺にてございまして……エエ、ハイ……
 歴史的価値はさほどありませんが、この壺には強いまじないがかけられておりまして……中に蟲を入れて念じるだけで相手を呪うことができます。より詳しい情報は説明書を貼付しておりますので……目を通しておいてください。……ですので当店では一切の対応は受け付けておりませんので、そこのところはご了承いただきます。
 どうぞお持ち帰りくださいませ……どのように使用するかは貴女次第です。
 それでは吉報をお待ちしております……」





―――――





 ああ腹が立つ。
 先日クラスに転校してきたアイツ。九条、とか言ったっけ。とにかく腹が立つ。
 今まで私が成績一位で優雅に暮らしてきたというのに進学校からの転校生だとかなんとかで、私の順位を脅かしている。
 今日の小テストだって私と同じ満点出しやがって。だのに得意げな顔一つせず、取れて当たり前、それどころか他のクラスメイトに教え始めてさ。さぞ優越感に浸っていたでしょうね。あの清潔感ある顔の裏側ではどんなことを考えているのやら。ああ、想像するだけで虫唾が走る。
 おまけに運動まで完璧ときたものだ。体育の授業中、クラス女子の視線がアイツに釘付けになっていて心底気味が悪かった。なによ、あんたらちょっと前までイケメンアイドルの話題でキャーキャー言ってたばかりじゃないのよ。それが少し顔が良くて運動も勉強もできる転校生が来たからって……ホント呆れるわ。単純すぎて同じ学生として恥よ、恥。
 放課後も放課後よ。色んな部活から引っ張りだこに勧誘されて嫌な顔一つせず見学しに行ってさ。どーせ元いた学校に比べて低レベルだな……とか思っているに違いない。

 ここ数か月、私の苛立ちは常に過去最高を更新し続けている。それもこれも全て九条のせいだ。
 トップを歩き続けていた私の栄光ある成績がヤツの出現によって揺らぎ、先生からの期待、周囲の目がそちらに引きつけられているのがとにかく気に入らない。その場はもともと私がいた場所なのに。私だけがぬくぬくと居座り席を温め続けていた場所なのに、突然やってきたお前に奪われかけている意味がわからない。
 しかも、しかもだ。あまつさえ忌み嫌っているというのに神の悪戯か悪魔の意図か、ヤツの席は私の隣なのだ。おお、なんと許し難い。いったい私が何をしたというのだろうか。
 二人で作業をする授業になれば必然的にヤツとペアを組まなければならなくなり、それは私が思うつく上で最大限の唾棄すべき行為だろう。
 いかに完璧な私と言えど、人間誰しも忘れ物はする。以前私が教科書を家に忘れ、それに気づかないまま鞄の中を探していると徐にヤツは自らの教科書を見せびらかせながら机を寄せてきたことがあった。実に愉悦だっただろうさ。教科書を探す私を内心あざ笑いながら施しのように教科書を見せびらかしてきたのだからヤツの下卑た精神がよくわかったよ。





 あまりに苛立ちすぎていたのでついついいつもの帰宅ルートを逸れてしまった私は、見覚えのある道を探そうとフラフラ歩いていた。
 ……おかしい。
 毎日無意識にでも通っている通学路なのにどうしてこうも見覚えのない道ばかり続くのだろう。町並みは何もおかしくないのに何か決定的なところでいつもとは違う通りを歩いているような、そんな錯覚に陥った。
 だからなのだろうか。普段なら入る気にもならない骨董屋にまるで吸い寄せられるように入店してしまったのは。骨董屋なんてただのマニアしか出入りのしないジジくさい店という偏見をもっていた私なのだけれど、私自身入店してしまったので考えを改めなければならない。
 それから先のことはなぜかあまり覚えていない。おぼろげな記憶をたどると、私よりもやや小さめな女の子が店番をしていて、他愛のない話をして、気がつくといつもの見覚えのある通学路に戻っていて、帰巣本能のように実家
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