所有の罪

 ロズとミックはそれぞれが担当する死刑囚を連れて地下牢を歩いている。
 ミックが連れ歩くは、スキンヘッドのぎょろ目中年男。
 ロズが連れ歩くは、どう見ても殺人者とは思えぬ風貌の女。
 性別も身なりも全くといって良いほど異なる二人の犯罪者であるが、人を殺めているという点においては確固たる証拠のある共通点がある。
 その足取りの重さは足枷の鉄球が地下牢の石畳をごりごりと擦り、乾いた低音からでも十分わかるほどだ。

「オラッ!入れ、今日からココがテメーの部屋だ。ま、死ぬまでの期限付きだけどよ」

 ミックは真鍮の鍵を取り外し鉄格子を開けると、中年の死刑囚"グリドリー"を足で押し付けながら牢の中へと蹴り入れた。グリドリーの背中には泥のついた足跡がくっきりとつけられている。
 はたから見ると酷くぞんざいな扱いだと思われるかもしれない。しかし、彼は執行人で相手は死刑囚なのだ。立場的に執行人が優位であるというのは明らかであり、いかに執行人が傲慢な態度を取ろうとも死刑囚はただそれを耐えるしかないのである。

「勘違いすんなよ。俺が死刑執行するまでの間お前の命は補償しといてやる。けどそれまでに間に俺が何しようとそりゃテメーの知ったこっちゃねぇ。それがここのルールだ」

「フヒ、ヒヒ、ウヒヒ」

「返事はあり、言葉は認識できず……っと。あんまり面倒なこと起こしてくれるなよ?かったるい後始末は困るんでね」

 鍵を施錠して収容の完了である。
 メモ帳のようなものに死刑囚の特徴を記入しながら、独り言のように喋り倒すミック。もしかするとグリドリーに話しかけているのかもしれないのだが、当の本人は視点も合わない上の空だ。よだれをたらしながらやや白く濁った斜視をぐるんぐるんと動き回すその姿ははっきり行って健常とは程遠いものである。
 17人もの女性を殺害した者が健常と言い振舞うこと自体に御幣がありそうだが、少なくともグリドリーという男は普通ではないということは最低限理解できそうだ。

「オ、おお、オンナ……女くれ!オンナオンナぁ!ここころしてきもち!」
「うっせーんだよこのダボハゼがッ!」
「あうあうオンナ……おんなくれ……ぐげげげ」

 収容された直後、突然グリドリーが鉄格子を両手で掴み癇癪を起こし始めた。手錠と鉄格子がぶつかり合い甲高い金属音ががしゃんがしゃんと鳴り響くものだから、あまりのうるささに腹を立てたミックはそれよりも大きな怒鳴り声で黙らせる。反射的にミック自身も鉄格子を一発蹴りいれてしまって一際大きな騒音が両者を劈く。
 音に驚いたのかすぐさま静かになるところを見ると、意外と聞き分けはいいようである。

「うあああかゆいカユイ痛いイタタた」
「…………ひでーなこりゃ」

 メモ帳に2、3個新たなコメントを記入するとミックは看守室へと戻っていった。






 一方、その頃ロズは。
 
「……入れ。ここがお前の独房だ」

 静と動で表すならば、ミックが動であるならばロズが静だろうか。大柄な体格からは想像も出来ぬほど静かで落ち着きのあるロズ、そしてその後ろに佇むカティア死刑囚。袋を外し露になったその姿はやはり美しいものがあり、容姿端麗を取ってつけたような立ち姿で、二人の姿を例えるならば巨木と小枝のようだ。
 二の腕付近まで伸びたすらりと伸びる蒼いロングヘア。その髪は彼女の凛とした目つきと相まってとても冷たく感じられる。
 奥の方から聞こえる騒音を小耳に挟みながら解錠作業をしていると、ロズの背後から語りかける彼女の声が聞こえた。

「ここが私の独房なのか」
「ああ、そうだ」
「暗くて、狭いな……とても」
「地下牢なんだから当たり前だろう。ほら、開いたぞ入れ」

 鉄格子が開くと、カティアは独りでに足を踏み出し自らの力で独房へと入っていった。
 カビ臭くて、じめじめして、薄暗くて、ノミシラミが沸くベッドがあって、すぐ近くに濁流流れる下水があって……人間が住むにはこれとないほど最悪の環境である。これほど美しい女性がこれほど汚らしい環境に佇むという光景が絶妙にミスマッチであり、何か別の新しいジャンルが生まれそうな、そんな気さえしてくるほどだ。
 彼女の全身が独房に入ったのを確認すると、ロズは早々に鉄格子を閉め施錠する。ガチャリ、ガチャリという音が二回ほど鳴るのを確認すると、彼は看守室に戻ることなく鉄格子に寄りかかり、カティアを背にとるかたちになった。

「気分はどうだ」
「…………」
「お前の世話から死刑執行までの間担当になったロズだ。短い間だがよろしく頼む」
「…………」
「……聞いているのか」
「あ、あぁすまない」

 今にも消え入りそうな、か細い声。それが彼女の第一印象だった。
 この薄暗い地下牢の重圧に今すぐにでも押しつぶされてしまいそうな、力弱
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