【昔々の大昔
二人の天使がいた
一人は自分こそが正義だと信じてやまない大天使
一人は悪こそが真実だと信じてやまない堕天使
まったく異なる二人の思想はお互いを衝突させるには雑作もないことであった
大天使は剣を取り
堕天使は剣を取り
大天使は歌いながら剣を振り
堕天使は怒りながら剣を振り
かつての友であった二人はいつの日か敵となり
七日七晩戦い続けた
木々は消し飛び、大地は割れ、海は大荒れ
村は死に、町は飢餓、城は陥落
この世の終わりかと思われた戦争で
八日目の朝、荒れ果てた戦場に残されていたのは
一対の剣だけであった】
「この一対の剣『偽りの正義、真実の悪』には様々は伝説、異名、怪奇、災いなど等・・・が語り継がれております。
ある時は民衆を救う英雄の手元に。
ある時は大剣豪である二刀流の武士の手元に。
ある時は悪逆非道の限りを尽くした国王の手元に。
ある時は戦を招き入れる呪われた剣として。
多種多様に語られておりますが、ただ一つ確かなことがあります。
それはこの剣を手にしたものは凄まじい力を手に入れられるということ。
その力はただの腕力的な意味ではございません。権力、財力、発言力、戦闘力、魔力、指揮力・・・
ありとあらゆるものを手に入れられるでしょう。
しかし忘れてはいけません。
己の力に溺れ目的を見失った時、その大いなる力は自分に降りかかることになるということに。
そのとき貴女はどちらに傾いているか。
それによって貴女の命運は分けられるでしょう。
善と悪。相反する二つの力に惑わされぬよう己を保つようにして下さい。
それでは吉報をお待ちしております。
代金は後払いで結構ですから・・・」
※※※
聖騎士アリア=マクシミリアンは苦悩していた。
晴れて憧れであった聖騎士になれたというのに、己の戦闘力のなさに苦悩していた。
特に貴族でもなんでもない田舎出身の彼女が聖騎士と言う役職に就くに、どれほどの苦労と努力があったのかは想像するに容易い。一つ一つ、戦場で功を重ね幾多の敵を葬り、武力功績を認められるまでにどれほどの歳月がかかったことか。
ゆえに彼女は聖騎士になれた今でさえも、己の力はまだ足りないと思い込んでいた。
実際彼女は恐ろしく強者である。幾千の戦場を潜り抜けたその戦闘センスは他を圧倒するものがあるだろう。
だが彼女はまだ足りなかった。満足していなかった。
己を徹底的に磨き上げ、己の右に立つものは存在しない。自分の背中を任せられるのは自分のみ。
孤高に立つ絶対的強者。
彼女はそういう思想の持ち主であったのだ。
既に歴代最強とまで呼ばれている彼女であるが彼女自身はその異名は全くと言っていいほど信じていなかった。
強さへの飽くなき探究心はいつになったらこの私を満足させてくれるのだろうか。
最近そんなことを思うようになって気さえする。
「なるほど・・・確かにただの剣とは雰囲気がまるで違う」
どうにかしてもっと強くなれないものかと、悩みあぐねていた彼女はふと城下町で珍妙な骨董屋を見つける。
路地裏の一角にずいぶんと小ぢんまりした怪しげな店はこれまたずいぶんと小ぢんまりとした店主が一人で立ち尽くしているのみであった。
それ以外特に何のとりえも無さそうな骨董屋であったが、何故か彼女は吸い寄せられるように足を運び、店主の話を聞くうちに知らず知らずのうちに物品を拝借していたということだ。
するりするりと物品を覆っている布を外していく。
数枚の布で何重にも巻かれていることから、とても厳重に扱われているものであると言うことがわかる。
最後に何やら呪文が書かれた札が張ってあったが彼女はそれを見向きもせず剥がすと、物品の全容が露になった。
一つは『偽りの正義』と呼ばれたもので鞘、刀身、柄まで全てにおいて真っ白であり所々に金細工が装飾されたやや短めの、短剣と長剣の中間ぐらいの長さの剣。確かに切れ味は良いがどちらかというと戦闘向きのものではなく、専ら宝剣のように飾り立てるタイプの剣のようだ。透き通るような綺麗な刃は見ているだけで心が安らぎそうになる。
もう一つは『真実の悪』という赤黒い鞘、鎖が巻かさった鞘、吸い込まれそうなほど暗黒色の刀身である両刃の長剣であった。その禍々しさはなんと形容したらいいものか、彼女が今まで見たこともないようなほど黒くそして恐怖を感じた。
だが、恐る恐る手にしてみるとその見た目に反し驚くほど軽い。柄も一見掴みにくそうな形状をしているがいざ掴んでみると意外にも手にフィットし、その軽さと相成ってまるで剣を持っていないかと錯覚してしまうほどであった。
そして一番の驚きはその切れ味である。軽く確かめてみようと、切っ先に軽く指を当ててみたが、それだけで指に切り傷がついてしま
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