―百年後の9月1日―
「無駄な抵抗は止めて早く出てこい!お前の身元は調べさせてもらったぞ!」
ある、晴れた日の朝。
数百人の教会兵士がある一軒の研究所を取り囲むように配置され大声で中にいるであろう人物に語りかけていた。
「世界に名を統べるほどの大発明家がよもや人魚の血をもってして不老長寿となろうとは、誰が予測できようか。さらに禁忌とされている生面倫理にまで手を染めるとはもはや・・・手遅れである。
もはやヤツは大発明家ではない、大犯罪者だ!」
教会兵士の中には数人の科学者や研究者らしき者の姿も見られ、どうやら研究所内部に潜んでいる人物のことを酷く蔑んでいるようであった。
どうやら彼らは研究所の内部に潜む人物を追い求めているようであり、その血相を変えた表情をみればどれほど必死になって探していたのかがわかる。
「今ここでヤツを逃がしたら次のチャンスはいつになるかわからない。よって今この瞬間がヤツを捕える最高の機会だ。どんな手を使っても構わない。絶対にヤツを逃がすな」
ザワザワと辺りがざわめく。
彼らはおもむろに武器や錠を取り出し、今か今かと突入の合図を待っていた。
その様子から事を穏便に済ませる気は毛頭ないと伺える。
「気をつけろォ。ヤツは発明家だ、どんな罠が仕掛けられているか見当も付かない」
―――――――――――――――――――
「えぇと・・・ここをこうして・・・と。こんなものか」
男の着るモノ、かつては白衣だったそれは黒く煤けており、白衣の面影は完全に消失してしまっている。数日間剃られていない無精ヒゲは彼の細く精悍な顔を一気にイメージダウンさせるようで無造作に生え散らかっていた。
そんな不潔の対象である男は今、一目見るだけでも複雑とわかる機器のパーツを組み立て何かをしているようだ。
「どれだけこの瞬間を待ちわびただろう。時は進めど、俺の時はあの日から一分たりとも進んでいないというのに」
ごくりと、そしてうっとりと息を漏らす。
彼の視線の先にはそれはそれは美しい一人の女性が立ち尽くしていた。
黄金色のきめ細かく腰まで伸びる髪。
それに沿うように伸びるぷっくらとして瑞々しい流曲線を描いた肌色の肌。
触るだけで弾けてしまいそうなほど弾力と質感に満ち溢れたその肌は確かにヒトの形を成していて、出る所は出、窪む所は窪みこれでもかというほどに美化されていた。
「お前を創り上げるためには圧倒的に時間が足りなかった。不老長寿となりヒトでなくなった俺をお前は愛してくれるだろうか」
彼はたった一人で創り上げたのだ。
学会で禁忌とされたホムンクルスに手を出し、生命倫理を逸脱したその技術で生命を作り出すことを。
ホムンクルスをベースにして創られた目の前の彼女【ゴーレム】はゴーレムと言われなければ気が付かないほど、限りなく人間の形をしていた。
見た目どころの話ではない。
質感や質量、体内の臓器にいたるまで極限まで再現性を求めほぼ人間といっても差し支えのないゴーレムを創り上げることができたのだ。
コア、彼女の核となる一番大切な中心部には見たところ小さな録音機器が埋め込まれているようである。
「ヒトに憧れたたった一人の私の恋人。やっと・・・やっと会うことができる」
すべての工程が終わったのだろう。
男は彼女から離れ、機器に繋がれたレバーを手にする。
「今こそ再開のとき。俺達の時はいまここから再び刻み始めるのだ」
彼がレバーを倒すと、彼女の両脇に置かれてある重苦しい機械が唸りをあげる。
ゴウンゴウンゴウン・・・
バリバリバリバリッ
機械から彼女へ繋がれているパイプ、チューブへ信号が流れたかと思うと彼女の体が二、三度跳ね上がり、体の接合部からは煙が上がりだした。
今にも動き出しそうな彼女はまるで操り人形かの如く踊り、四肢をあちらこちらへ動き出すとやがてピタッと動きを止めた。
彼はおずおずと彼女の方へ近寄り顔を見つめる。
「・・・どうだ」
「・・・・・・・・・だめ・・・か」
まるで陶磁器のように滑らかな素肌はただひたすらに沈黙を貫き通しそこにあるだけである。
今にも動き出してしまいそうな人形の彼女。
ドガァァァアアアン――!!
「くっ!もう嗅ぎつかれたか・・・」
男が後方に目を回すと、壁の一部分が崩され土ぼこりを上げていた。
その土ぼこりから現れてきたのは先ほどの教会兵士、そして科学者や研究者。
恐らく爆弾か何かで壊されたのだろう、壁の一部は跡形もなく吹き飛んでいる。
「見つけたぞエルリック=オドネア!人魚の血服用及び禁忌に手を染めた罪状で貴様を捕縛する!」
開いた穴からはぞろぞろと教会兵士が一人、また一人と研究所内部に
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