・8月31日
『天気:不明
ザザ――ガガガッ
もしもしユミルです。
地球は今どのような天候ですか。
「昨日と―じ。快晴―。宇宙は――だ?寒いか?」
宇宙なので天候という概念は存在しませんが、ただ言えるならば約摂氏−270℃くらいでしょうか。
いかんせん、外気の気温を完全にシャットアウトするようになっていますので寒い、熱いというのは感じませんが。
「まさしく絶対―度の空間――うわけだな。―――――――――――――がう?」
すいません、通信障害が激しく・・・もう一度お願いします。
「流―――の距離じゃ無理があ――。そ―他の様子は――なっている?」
その他の様子ですか。そうですね、ただ言えることは無音で・・・暗闇で・・・何もない。
光さえも、空気すらも存在しない完全なる暗黒の世界とでも言いましょうか。
地球の常識など到底通用しないでしょうね。
「そ―か。――じゃまた後で通信たの―。ユミ―は任務―全うし―くれ」
了解。しばらくしたらこちらから再び通信いたします。
彼・・・エルとの他愛もない会話。
このこの音もない空間では私の耳に入るのはこの他愛もない雑談のみである。
いや、空気の存在しない宇宙では音の空気振動すらも許されない。つまり私が聞こえているのは、私の脳派に直接流れ込んでくる電気信号というわけなのだが。
それでも確かに私は今この瞬間、エルと会話し情報交換を行なった。
その出来事さえあれば音が聞こえただの聞こえないだのは全くどうでもいいことばかりである。
地球から遠く離れたこの暗黒空間で他人と会話ができるということだけで、とてつもない幸運なのだ。
まるで赤子が哲学を語り出すかの如く。
全盲の少年が美しい肖像画を描き上げるかの如く。
適当に創り上げた曲や脚本が世界的に有名な戯曲と類似しているかの如く。
そういった幸運、いや奇跡といっても差し支えのないほどの偶然が折り重なって今私とエルはたった一つ繋がっている。
この世に神が居るのならば、魔物娘という身でありながらも感謝したいところだ。
目標地まで約2時間です▼
もうこれほどまで近づいてしまっていたか。
どれ、そろそろ爆弾の準備を始めなければな。
・・・・・・エルのご先祖であり私の創始者でもあるルーベリア氏。
彼は一体私を創ってどうしたかったのだろうか。
今更過去の出来事を掘り返しても仕方のないことだが、どうしても気になることが私のなかで引っかかっている。
ルーベリア氏は地球の半分を破壊することの出来る恐ろしい爆弾を発明した天才である。
その彼がそうなるにまで至った理由としては、恐らく自分と同種である人間の醜さや惨たらしさに絶望したからだというのは間違っていないだろう
ではそのような天才的頭脳を有している彼がなぜ、爆弾を作成したそのときに起爆せず数百年後という言ってしまえば面倒くさい手法を取ったのだろうか。
地球を半壊させるほどの爆弾だ、全人類全てを葬り去ることは出来ぬが間接的に人類滅亡へと誘えることは出来たはずである。
私が考えるに爆発から逃れられた半分の人類は、残された土地を我先にと奪い合うだろう。それはもう全世界を巻き込むほどの大戦となるのは間違いなく、残された人類は衰退の道を辿るだけとなる。
人類は自らの手で滅ぶこととなるのだ。
私が少し考えるだけでも想像できたのだ、天才的頭脳を持つルーベリア氏ならばこのような結末は用意に予想できよう。
わざわざ隕石が衝突する時に合わせて時限をセットするという必要はまったくもってないということがよくよく考えてみればわかる。
では何故か?
確実に人類を滅ぼせるよう念には念を入れ隕石が衝突する時と同時にしたのか。
いや、天才であるルーベリア氏はそのようなことすらも計算尽くしているだろうから無駄な計画は練りこまない。
ここで私は私なりに仮説を立ててみた。
それはどのような仮説かというと・・・まことに身勝手はなはだしく自己中心的な仮説ではあるが、ルーベリア氏は発明品である私という存在を通してもう一度人間というものを見直してみようと思っていたのではないだろうか。
そもそも人類を滅ぼすためなら爆弾を作ればいいだけで、わざわざこのような高性能のゴーレムを作る必要はない。まして、神界の神具をふんだんに使用したこれでもかというくらいに手間隙のかかったゴーレムをわざわざ作ることがまずおかしいのだ。
彼は書物の最後にこう語っていた。
「もう我輩自身でさえも、どちらが真実なのか判断できなくなってしまった。愛すべき人間の行く末を地獄から見守っていたいと思う我輩と、ここまで堕ちた人間は全てリセットすべきと思う我輩が拮抗している」
と。
もしかす
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