・8月29日
『天気:晴れ
残すところ私の活動限界まで二日となってしまった。
もはやここまでこれば半ば諦めの色が色濃く出始め、刻々と迫り来る時までただ何も考えずに過ごそうと考えている私が自分自身納得したくはないが、そうすることしか出来ないのが心苦しい。
人生何があるかわからないとよく聞くが、生まれて一ヶ月の命と決定付けられている私にとっては気休めの言葉でしかない。
結局はそうなのだ。命というものは全てのモノに平等に分け与えられ、そして平等に失うのである。
歴史的改革を成した偉人も、世界的犯罪者も、名も無き奴隷も、普通の兵士も。
全て平等にこの世に生を受け、そして平等に死んでゆく。それが遅かれ早かれの差はあるが、命というものは得た時にはすでに失うことが決まっているのだ。
そしてそれは人間も魔物も同じ。
だから我々生あるものはその終わり行く最期のひとときまで自分がこの世に生きていたという証を残すのである。
それがどんな形あれ、他人に気づかれるものなのか誰にもわからぬものなのか。それでもいい。
歴史に残されようとも人々の記憶から消えようとも、要は自己満足でもいい。
少なくとも私はそれで満足だ。
・・・とまぁ感情のない私が語ったところで信憑性は皆無なのだがな。最期の愚痴ということにしておこう。
さて今日は丸一日エルと過ごすことにした、いやさせてもらった。
なんたる偶然か屋敷には母様、妹様ともに外出しており、今屋敷にいるのは私とエルの二人のみであったのだ、この機を逃すわけがない。
おそらく今日がエルと過ごせる最後の日になるであろう。いや、だろうではない、そうなのだ。
今思い返すとこの一ヶ月でたくさんのことを体験したな。
私はエルに連れ出さられ、エルと共に暮らしかけがえのないものをたくさん貰った。
人々の温もり。
家族の心地よさ。
そして人を愛するということ。
もはや感謝という言葉では表せられないほどの多大なことを教えてもらった。私は幸せ者だ。
だから今日はエルに感謝の念をこめて私ができる精一杯の恩返しをしようと思う。
それはとても大事なこと。今となっては私の生きる最大の糧となるもの。私はエルがいたから、エルに取り出されてもらったときからこうなるように決められていたのだ。
多分これは、プログラミングされていたからという範疇では収まらないだろう。きっとそうなるように運命付けられていたのだ。
私は全力でこの感謝の念を伝えようと思う。
少々日記帳で書くのは忍びない内容なので、音声の記録のみで綴ろうかと思う。
―――――――――――――――――――――――――――――――
・・・ピー・・・・・・ガガッガ・・・
「いやぁしかしこんな天気のいい日にユミルが押しかけてくるとは・・・てっきり母さんと妹について行くもんだと思ってたよ」
【いえいえ、私にはエルと過ごすこのひとときのほうが余程魅力的に感じます。そして本日はエルに用事がありますゆえ・・・】
「俺に用事?一体何事だ」
【かしこまって言うのもなんですけど、私は常日頃エルから多大な御礼を承っています。ですので本日はその恩返しをしようという目論見がありまして】
「目論見って聞くとどうも負のイメージしか沸かないんだが・・・まぁいい。で、そうかそうか恩返しか!ユミルもだいぶ機械らしさが抜けてきたなぁ。どんな恩返しとやらをしてくれるんだ?」
【私の身体器官の復興率は100%・・・いえ、研究跡地から戻ってきた際に150%まで増幅されておりました。つまりもう理解できますよね】
「だろうな。でなきゃこの状況の説明が付かん。とりあえず手を離してくれないか」
【え・・・あっ!す、すみません!もう私自身我慢できなく・・・ですので私が熱暴走する前にエルの方からリードしてくだれば本望です】
「何で恩返しするほうがお願いしているんだよ・・・ま、俺だってユミルのマスターだ。召使のお願いは聞いてやらないとな」
バキンッ
メリメリメリッッ
ゴトリ・・・
【はぁぁありがとうございますエル。外殻を外しました、私の素肌を・・・生まれたての裸をどうぞその眼に焼き付けて下さい。私が生きていた証をしかと記憶して下さい】
「そんなこと言われなくてもユミルとはこれからも一緒だよ。マスターである俺が愛するのはユミルだけだし、召使であるユミルが愛するのは俺だけでいい。そうだろう?」
【嬉しいっ♪私は貴方を愛しています。マスターとして、一人の男として。これからもですか・・・そう、ですよね・・・これからも・・・よろしくお願いしますっ】
「おいおいどうしたそんなに嬉しかったのか?」
【はいっ。おかげでホラ・・・私の下のお口が泣いていますよ。もうエルの声を聞くだけで
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