・8月26日
『天気:晴れ
気が付けば私は研究跡地を後にし、エル達家族が待つ屋敷まで戻っていた。今こうして日記を記録しているのは、私が得た情報のあらかたのことをエルに説明した後のことである。実況モードを解除して普通の録音モードに戻してあるので落ち着いて整理できそうだ。
あの暗号、あれには私の知りたい情報が全て書かれていた。いや、知らなければならない情報なのかもしれないし、もう既に運命付けられていたのかもしれない。
私は唯々
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lt;驚愕
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gt;した。暗号に記された恐ろしく一方的で怖ろしく合理的な、とにかく感情のある者が見たら発狂してしまいそうなほどの内容に私は押しつぶされ、淡々と綴られる前マスターの思いの内が、感情の存在せぬ私の中にたたみ掛けるように止め処なく流れ込んできた。
だがしかし私には彼を否定することも肯定することもできなかった。余りにも情報が大き過ぎたのだ。
世界を滅ぼす?
世界を救う?
私はそのようなことが知りたかったわけではない。ただ、私の出生はどのようにして生まれ、何の為に作り出されたのか。ただそれのみを知り得たかったのだ。だがしかし、何がどうして今の事態に陥っているか頭では理解できとも、認識したくはない。
生涯かけて創り上げた研究物の最高傑作だとか、亡き妻の亡骸をベースに創り上げたゴーレムだとか・・・影ながらそういったロマン、ファンタジー性のある過去を密かに望んでいたのだが、現実は余りにも非情の限りを尽くした残酷的なものだということを改めて再認識せざるを得なかった。自らの出生の秘密を解き明かそうとしたつもりが、自らの終わりの宣告だったことほど面白おかしいことはない。笑いたくとも笑うこともできないがな。
私は家に戻り、まず初めにエルの部屋へと駆け込んだ。
相も変わらず油と煤まみれの作業着に身を包み工具を扱っているエルの姿がそこにあり、彼も私の存在にすぐ気が付いたようで、エルと私の目が合う。
数日、そう、たった数日屋敷を後にしたというのだけなのにエルはまるで数十年ぶりに再会した恋人かの如く私を見るや否や、全力で抱きついてきた。神界の武具で作られたらしい私のボディが煤まみれになってしまったがまぁエルだから何も思うことはない。むしろ抱きついてきてくれたのが上なく嬉しいのが本音といったところだ。
エル曰く、いくら人間より強力な力を持っている魔物娘だとしても結局は女性であることには変わりなく、つまるところ私が心配だったらしい。魔物娘である私はいまいちその心情は理解し難いが、裏を返せばエルはそれほどまでに私を心配していてくれたということになる。そして、ゴーレムとしてのみならず女性としても見てくれていたのだ。
これほど《嬉しい》ことはあるだろうか。
愛想も感情も欠落している自律人形として今まで―異例はあったが―共に付き添っていたが、これほどまで高揚したことはない。いつもはエルや妹様のことを心配ばかりしていた私だが、逆の場合もなかなかよいものだな。
数日振りに触れ合うエルの感触、質感に当てられ今すぐにでも精の搾取を行いたいと思った次第だが、そうなるとまた一日を無駄にしてしまうことになるので、まだ出来るだけ精一杯の我慢をしておこうではないか。
それから私はエルにだけ日記の内容を断片的に知らせた。
日記の筆者はエル達の先祖であったこと。
彼は天才的科学者兼哲学者であったこと。そして人間に希望と絶望を抱いていたこと。
私は彼に創られ彼の手によりコールドスリープさせられていたこと。
私は泥と土でできているゴーレムではなく、他のゴーレムより少しだけ特殊だということ。
その他色々と・・・
そう、全ては話さなかった。
一番の主要であり必ず伝えなくてはならないことを私はあえて語ることなく、胸の内にしまい置くことにした。どうしてエルに伝えなかったのかは私自身もよく分からない。言わなければいけないのにもし言ってしまえば全てが壊れてしまうような、今まで積み上げてきたものが全て崩れてしまうような気がしてならなかったのだ。
私自身、自らの終わりを認めたくなかった深層心理の表れなのかも知れないな。
もし仮に私が全てを話したらどうなったであろうか。
恐らく、何も変わらない。
日記に記されていることは全て避けることの出来ない信実なのだ、もう何も変えることが出来ない。
日記の内容に耐えかねてエルが正気でなくなってしまったら・・・そちらの方が私にとって怖ろしい限りである。終わり来る世界を前に一家心中などされた日には私も死んでも死に切れないものだ。
ふぅ・・・久しぶりの日記は疲れる。
まだ書くことはたくさんあるのだが、いかんせんまだ疲労が取れきっていないもので文章が浮かんでこない
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