・8月16日
『天気:晴れ→雨
今日は町民総出で雨乞いが行われた。
と言うのもここ数日、連日猛暑が続いている。ゴーレムである私は気温で言うところの1千度辺りまでは耐えることができるし、食料も精があればそれで十分である。作物が採れなくなろうとも生き残ることができるのだ。
だが、人間と言うものはそうも行かないらしい。観察してみたところ、外気ではだいたい40度を過ぎると熱で命を失う人間も多く、また全体的に日常生活において行動に俊敏さが欠けるといった支障をきたす。また、水が干上がると水分を取る術がなくなり、作物を育てることもできなくなるというのだ。熱による身体的攻撃と栄養失調による生態的攻撃の両方から板ばさみされるという、まことに過酷な状況下に置かれるというわけだ。
暑さを感じるわけでもなく、エルの精液を摂取してのうのうと生活している私にとって、暑さに苦しむ人間たちの辛さを理解し得ることはできないが、エルたち家族や町民たちの表情を見る限りいかに暑さと言うものが人間にとって《厳しい》ものなのかを考えさせられる。
食糧も本格的な危機を迎えたそうなので、町民総出で雨乞いを行ったというわけだ。もちろん私も、エル、妹様、母様も赴いた。町の広場には大きな簡易式の社が組み立てられており、その中心を取り囲むように町民が座りながら集まっていた。(どうやらジパング方面の神事であるらしく、町民の体制は"セイザ"という座り方らしい)私たちも他の人々と同じような体制で集団の一部に加わり、これから始まる神事に向けて待ち構えていた。無論それまでの間は得にすることもなく暇な時間であったので、エルとの何気ない会話を楽しんだ。エルは私のことをどう思ってくれているのだろうか。唯のゴーレムなのか、それとも言葉にならないとても大切な何かなのか。私はそれを想像するだけで、内部器官が発熱しオーバーヒートしてしまいそうなほどであるのに、この思いを遂げてしまうと今までの関係に戻れないのかもしれないという非常に《厄介》な状態に陥っている。一方妹様と母様は、二人で内緒話をしているようで誰か人探しをしているようであった。妹様の視線がエルの方に向いていないことを内心好機と思っている私が最近は当たり前だと思い始めてきた。むしろこういう風にプログラムを書き換えてしまおうか。
そうこうしている間に雨乞いが始まったらしく、中央の社から二つの影。魔女と河童の二人が現れ、辺りは一瞬騒然としたがすぐさま収まり二人を見届けることにした。ここは親魔物領であるからにして魔物娘がいることは格段珍しいことではない。親魔物領でないと今頃私も、妹様も町から追放させられてしまうことだろう。河童はジパングの伝統的な神事なのか珍妙な舞踊を踊りだし、魔女はと言うと空に向かって呪文を唱え始めた。河童の踊りに見とれていると何と言うことだろうか、雲ひとつない青空が徐々に分厚い灰色の雲に侵略されているではないか。これには私たちも、町民たちも言葉を失い一層力を入れ祷るばかりであった。エルは隣で「舞踊による祈祷エネルギーの変換を、力学変換魔術により自然エネルギーへと・・・」となにやら呟いていた。私は創られた当初の学問ならば完璧にインプットされているのだが、私が創り出された後の新しい学問は今の私には理解することができない。よってエルの呟いていることもそれらに関連したものなのだろうかと考えるしか他ならなかった。
太陽が暗雲に覆われ空の明るみが失われたころ、ぽつり、ぽつりと水の雫が空から落ちてくるのが目に見えた。やがて雨粒の数が多くなりついには小雨、そしてザーザーと降りしきる大雨へと変化していった。大雨にも関わらず家の中へ戻る町民は誰一人とおらず、歓喜の叫び声が轟轟と響き渡る祭り状態に変化した。エルたちも嬉しそうであり、騒ぎの中に加わるエルたちを私は静かに見守っているだけであった。
人間というものは、感情が著しく発達した生物である。前読んだ生物の学本に書かれていた内容であるがまさしくその通りだと実感した。嬉しさというのは、嬉しさを獲得するまでに辛ければ辛いほど獲得した嬉しさが大きくなるものである。感情とは面白いものだな。』
・8月17日
『天気:雨
今日は妹様がいなかった。何でも友人と3泊4日で旅行に行くのだという。と言うことは明日も明後日もいない確率があるというわけである。ふふっ。
今日はアカデミーが休みということなので私は自分自身でも驚くほどの速度で業務を終わらせ、エルの工房へと向かった。エルと二人っきり。そのシチュエーションを今こうやって思い出すたびに内蔵メモリーがショートしそうであるほど、大事な時間であった。だが、まだ実行すべき時ではない。
カラクリを作る予定は今日はなく、一緒にいるついでだと言うことでエルは私
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