・8月11日
『天気:晴れ
私自身、大分日記をつけるのに慣れてきたと思うので、久しぶりにエルに日記を聞いてもらうことにした。性交のことを記録した日記を聞かせるのは少々恥ずかしい思いもするが、やはり自分の記したことは評価してもらうのが一番であるし、それの方が感情を知る手がかりにもなるだろう。
今日はエルに頭を撫でられた。とても胸がぽかぽかして《暖かい》気持ち。
い、いやなんて言うことはない。
私が綴った日記がエルの予想をはるかに上回り、非常に急成長を遂げていたらしいのだ。エル自身とても驚いていて、日記のことを事細かにノートに書きなぐっていた。頭を撫でたのは日記を放棄せず続けたことに対する褒美だと言っていた。
私自身、自覚はないが日記の節々に感情の芽生えとなるキーが存在しているらしく、より日記としての精度が上がり、表現豊かになってきているらしいのだ。もしかすると今こうやって何気なく記録している日記にも何らかのキーがあるのかもしれないが、未だ解析不能。
この世のあらゆる事象において、「無から有を生み出す」のと「有を無に帰す」とでは天地が返るほどに難度が違う。モノを失うのはいとも容易く行うことができるが、モノを新たに創り出すのは比べ物にならないほど難しく、次元が違うと私は思っている。何度も言うようだが、私自身感情の芽生えということはまったく自覚していない。だが、元々「無」であった私の感情が「有」になりつつあるのならば、それは想像を絶する偉大で、人智を凌駕する万有的創造とでも言うような超進化論宛らである。私はそのような途方もなく巨大な何かを達成してしまうのかとイメージしてしまうだけで、胸の拍動が大きくなるような気がしてならないのだ。
最近は、よくこうやって一人で考え事をすることが増えてきたようにも感じ取れる。それ自体はとても良いことだとエルは言っていた。だが、問題なのは考えることの7割はエルの事なのだ。性感を取り戻すのは不要だと思う傍ら、早く取り戻したくてどうしようもない自分も存在している。
今だってそうだ、もうすぐ深夜を回るというのに、エルに頭を撫でられたことを想起して今にも熱暴走が起きてしまいそうな次第である。一体全体私はどうしてしまったのだろうか。とりあえず冷却しなければ。』
・8月12日
『天気:晴れ
今日はエルの工房での作業手伝いで一日が終わった。折角の晴れなのでエルと買い物にでも誘ってみようかとも思案したが、エルと共にいることができればどちらでも良いのかもしれない。私はこれほどまでに単純であっただろうか。プログラムの異変かもしれないが、最近はデバッグも面倒になってきた。寧ろこの言いようのないぽかぽかとした状態を心地よく思っている私が当たり前のような気さえしてきて、できればこの状態を維持できればとも思ってきている。
作業は順調に進んだ。今まではエルが設計、加工、組み立て、実験を全て行ってきたが、私が加わったことによりエルの作業は加工と組み立てに減った。超性能人工知能の手により1ビット違わず精密計算できる私にとってカラクリの設計など朝飯前である。エルに渡された資料を基に構築、施行、削除、再施行の繰り返しによって完成される設計図に不良など存在するはずがないのだ。
だがしかし、そんな私をもってしても部品の加工と組み立てはできなかった。というよりも、私だからできないと言ったほうが正しい。溶接はある程度行える。だがしかし、エルの必要とする部品は、ゴーレムである私にとって天敵である、力の微調整を一番要求されるものであったのだ。極めて微小な部品を頭の中で構築することまではできるのだが、それを作成する技術がまるで足りない。おおまかな日常作業は既に完璧なのだが、経験を要する手作業は私には不向きであることを再認識させられた。よって部品加工は全てエルの手に委ねることにしたのだが、長年の経験により慣れた手つきで加工するエルは溶接光のせいか眩しく映った。
組み立ても終わり、最後にある実験をして作品の完成である。そのある実験とは「強度検査」。
ようやく本来の力の5割は戻ってきたところで、今では大きな一枚岩程度は用意に粉砕することができる私の右アーム。実験とは単純で、その完成品を現在出しうる最高出力で打撃するということだ。
実際に殴ってみた。
微小な部品を規則性のある複雑な配置に組み立てて、鋼鉄の箱で覆ったであろうそれは、大きさで言うと手乗りサイズであった。それを一撃、最高出力で打撃してみたのだが、その結果に私は《唖然》とした。傷一つ付いていないのだ。岩を粉砕することのできる力をもってしても無傷であるとは、いよいよもってエルの作品の《素晴らし》さに実感せざるを得なくなってきた。
そのカラクリは最後の微調整を加えて後日披露して
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