最終章:後編 そうして繰り返される毎日は、この上なく美しい。

「んむ・・・・・・あれ・・・」

 広々とした広場の中心で眠っていたソフィアが目を覚ますと、彼女の眼前には凄まじい光景が広がっていた。
 テーブルから落ちたのか酷く割れた皿がそこかしこに散らばり一歩足を踏み間違えると容易く怪我をしてしまいそうだ。綺麗に並ばれていたであろうテーブルは横になったりひっくり返っていたりで、さらには天井のシャンデリアにも引っかかっているものもある。むろんそうなれば食べ物は散らかることになり、ソフィアの服に付いた油汚れがそれを物語っていた。

「ええと・・・なんでこんなになってるんだっけ・・・?それに頭痛い・・・」

 なぜか痛む頭を抑えながら曖昧な記憶を必死に思い出す彼女の脳裏に段々と記憶が戻ってくる。

・・・青のゲートを選んだこと・・・
・・・使い魔のインプを上手く言いまとめること・・・
・・・マンションのホールには多種多様の魔物達がいたこと・・・
・・・大家さんのスピーチで宴会が始まったこと・・・

 ・・・そこから後の記憶ははっきり覚えていないが、ある程度のことは思い出すことが出来た。おおかた酒の飲みすぎで忘れてしまったのだろう。
 ふと見渡せばいたるところでいびきが聞こえる。よく目を凝らすとところどころで魔物達が寝ているようだ。おそらくソフィアと同じように泥酔からの睡眠と言う形にしておいたほうが説明がつくだろう。
 グレイの姿は見つからなかったが、きっとこの中のどこかで爆睡しているだろうと思い探そうとはしなかった。

「うう〜・・・わたしも飲みすぎたかな・・・もう一回寝よ・・・」

 再度その場に座り込むと泥酔しすぎたせいなのか、頭痛と吐き気が激しさを増していった。むやみに動くと余計に気持ち悪いだけなので、しばし安静にしていようと横に寝そべった。
 元々ソフィアはお酒が強い方ではない。ある時、地上にいた頃グレイと二人で飲み比べをしたことがあるのだが、軽く2.3杯飲んだだけで酔っ払い、その勢いに任せ何度もセックスをしていたとのことだ。自分自身酒に弱いことを知っていて、常日頃から気をつけていたのだがどうやら今回はハメをはずし多量の酒を飲んでしまったようだった。
 ようやくうとうととしだした頃静寂が広がるホールの一角で何かが聞こえる。耳を澄ましてみると誰かが話しているようだ。その声は非常に小さく暗闇にいとも簡単にかき消されそうなほど。ソフィア正直動きたくは無かったが、魔物化により高まる好奇心は抑えられなく、暗闇の中声の主を探しに立ち上がった。
 何も見えない暗闇の中声だけを頼りに声の主を探すのは用意ではない。三山と散らばったテーブルに足を引っ掛け何度も転び、他の魔物の上に倒れこんでしまうこともよくあった。幸い熟睡していて起きることは無かったが、もしミノタウロスやオーガなど気の短い魔物だとしたら大変なことになっているだろう。
 そのようなことを恐れながらも着実と声の主が近づいていくのが分かる。








 四苦八苦しながらもなんとか声の主の下へたどり着くことが出来た。と、同時に声の主の姿を見るや「なるほどね」と彼女は小声で呟く。

「あらあら〜ソフィアさんだったの。誰か近づいてくるのかはわかったけど貴方だったとはねぇ。一杯どう?」

「おや?あなたがグレイさんの妻ですか?これはこれは・・・」

「・・・いや、気持ちだけで結構です」

 そこにいたのは、宴会が終わった今でも酒とつまみを食べながら晩酌している大家さんと彼女は見たことも無いラージマウスであった。

「あらそう?まぁいいわ、席開いてるから座って頂戴」

 大家さんとラージマウスは向かい合って座っていたので、ソフィアは大家さんの隣に座ることにした。その際もう一度お酒を勧められたがやはり丁重にお断りした。ソフィアの頭には大家さんの機嫌を損ねるとまたさっきのようにとんでもない『オシオキ』を喰らうかもしれないという恐れがかすかに存在していた。
 ソフィアは先ほどから大家さんと話していたこのラージマウスは何者なのだろうかとさきほどから思っていた。特に何の変哲も無いラージマウスなのだが・・・しいて言えばコックの服装をしているくらいだけのだ。
 流石に何も言わないのは失礼だと思い自己紹介でもしようとしたら、逆に向こうから先に自己紹介をされてしまった。

「お初にお目にかかります、わたくし、このマンションのコック長を勤めさせていただいておりますドロッセルマイヤーと申します。ドロシーと呼んでください。既にグレイさんには挨拶は済んでおりますので・・・
貴方もここの住民になったのならばぜひ一度当レストランへ足をお運びください。最高の料理をおもてなししますので・・・」

「わたしはソフィア=ウィン。新しくこのマンションの57階に住むことになったわ。今後も色々
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6 7]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33