最終章:前編 そしてまた、日が沈む

「あー・・・・・・・・・・・・辛かった・・・」


 未だ、広場の中央のソファで会話を続けるグレイと大家さんの下に、彼女はふらふらとトイレから戻ってきた。彼女の顔色は青白さがなくなりうっすらといつもの桃色に戻っているところを見ると、トイレで全て出し切ってきたように見える。もちろん下の方ではなく上の方だが。
 彼女は軽く大家さんと目を合わせると恥ずかしそうにして言った。

「ト、トイレを貸してくれてありがとう、助かったわ」

 彼女はそう大家さんに言うともう一度、次は深々と一礼し感謝の心を込めた。大家さんはチーズケーキを何等分かに切りながらうんうんをうなずき、等分されたチーズケーキを口に運ぶ。

「いえいえ〜私はただトイレを貸しただけなんだから、そんな礼なんていらないのよソフィアさん。
ささ、座ってくださいな」

 そう言われソフィアはグレイの左側にちょこんと座り込んだ。グレイに体調を心配されたが、もう大丈夫と言うとグレイによりかかり彼女の体はグレイによって支えられている。
 グレイは自分の肩に乗っているソフィアの頭を左手で優しく撫でると、彼女はえへへっと照れくさそうに頬を染めた。かわいい。

「一体どうしたってんだろうな。特に食ったものと言えば・・・あの桃だけだが・・・それなら俺も気持ち悪くなるはずだし・・・」

「だよねぇ・・・原因が分からないとなんだかモヤモヤするわね・・・」

「まぁまぁいいじゃない〜もう終わったことなんだし」

「それもそうだよな。早いとこ話を続けよう・・・っとその前に菓子の味でも堪能しとくかな。折角貰ったものだ、こんな美味そうなもの食べなきゃ損ってもんだ」

 グレイはそう言い自分のプリンに手を伸ばす。
 皿に触れただけでその振動が全体に伝わるのかプルプルと砂丘のように波打ち、カラメルソースは砂嵐のように激しく渦巻いている。スプーンを入れると思ったほど軟らかくなく、しかし固すぎもない。まるで古代エジプトの雄雄しさ、神秘的さ、荘厳さを思わせるほどであり、また、そこに今現在も仕えていると言うアヌビスの肉球の感触なのかを想起させざる得なかった。
 その偉大なプリンをスプーンの小船に乗せ、口というピラミッドに運ぶこの経路がナイル川を渡るかのように長く、壮大に感じた。
 ・・・などというグルメ語りをしている内に、ソフィアの眼光がギラギラと自分に・・・いや、プリンに向けられているのが分かった。

「お・・・おぉ・・・そういえばソフィアはプリンが好物だったっけな。ほら、食べるか?」

 超が付くほどの大大大大好物のプリンを進められたが、吐いたばかりだから食欲がないと彼女は丁重に、そして悔しそうに断る。
 そのときの彼女の顔はこの世の終わりのような顔だった。さぞ食べたかったのだろう。
 また、調理場からは誰かの叫び声が聞こえたような気がした。

「え〜と・・・そろそろいいかしら?まだ話したいことがあるんだけど・・・」

「お、あぁ・・・すまんすまん。続けてくれ」

「そうなんだけど、まずソフィアさんにも一通り説明しとかないと話しても理解できないんじゃないかしら。
ほら、トイレに行ってたからまだ私の事とか色々と知らないじゃない?
カクカクシカジカ・・・」








「・・・ということなのよ〜分かってくれたかしら?」

「え、えぇ・・・未だに信じられないけどね・・・一応理解できるところまではどうにか理解できたわ・・・
人の心が読めること・・・記憶が分かること・・・そして、太古の女帝だったこと・・・」

 ソフィアも先ほどのグレイと同じように驚きを隠せなかった。
 人は物事を真剣に考えたりするときや、一気に物事を詰め込むとき、脳に多大なエネルギーを使うと言う。今のソフィアの状態は明らかにこれで、突然知らされた真実があまりにも大きすぎる事が故に、脳の許容量をいとも簡単にオーバーしてしまったのである。
 そのような状態から彼女は記憶の淵から一つのことをやっとのことで思い出した。それと同時に彼女は震えだし、額からは冷や汗のようなものが滲み出す。

「あ・・・あなた・・・自分の名前がウロボロス・・・って言ったわよね・・・?」

「そうだけど何か〜?」

 その言葉を聞き彼女は畏怖倦厭の情を起こさせた。グレイはきょとんとし、自分が蚊帳の外になってしまったかのような気がしたので話題の中に無理やり入っていった。

「なぁ、そんなに大家さんの名前が気になるのか?人の名前にいちゃもんをつけるのはどうかと思うがな」

「別にいちゃもんをつけているわけじゃないわ。グレイ・・・ちょっと聞くけど、あなたは歴史とか世界史って得意?」

 ソフィアのいきなり突拍子もない質問にグレイは鳩が豆鉄砲を食ったようになる。

「かなり苦手だが・・・特に今
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