「…………ん、んん……はっ!!!」
おぼろげな意識を叩き起こし目を覚ますアルベルト。まだ日は昇っていないのだろうか、真っ暗闇の空間の中彼はベッドの毛布を蹴り上げ起床しようとする。
(…………!?!?)
しかし蹴り上げられない。というより、そもそも彼はベッドで寝ていなかった。
彼は横たえてはいたものの、自室のベッドで寝ておらずどこかも知れぬ床の上で毛布を被らずにいただけであったのだ。日が昇っているのかどうか定かではないのはこの空間から外の様子をうかがい知れないためでもある。
窓のない完全な閉鎖空間で彼は目を覚ました。
(何だここは……僕はなぜこんなところで)
手を床に着き立ち上がろうとする。しかしその直後、すぐさま自身の異常に気がついた。
両手首が完全にくっつき合わさっており鎖のようなもので固定されているのである。身動きをとろうとしたところで両足も結ばれていることが発覚した。今の彼は両手両足が完全に拘束されており身動きが取れない状態に陥っていた。
いつの間に、誰が、どうして。無論、彼にわかるはずもない。意識を取り戻した直後からこの状態でありそれ以前のことは全く覚えていたかったのだからわかるはずがないのだ。
(僕は確か……そうだ、ロジーさん、いやロジーが魔物だと判明して、急ぎ教団本部に救援要請の通達を書いて…………それから?それからどうしてこうなっているんだ!?)
謎が謎を呼び自問自答が頭の中で堂々巡りを繰り返す。
ひとまず彼は壁に寄りかかりながら上半身を上げ目を暗闇に慣らすことにした。次第に薄ぼんやりと視界が晴れてくると、見覚えのある物品や器具がそこかしこに映るようになってくる。農作業用の鍬や鎌、積み重なった古い書類、見たことはあるが何に使っているかはわからない道具たち。
床は整えられた木材ではなく地面そのままで、しっとりとした湿り気ある土が彼を支えている。
(どこかの屋外倉庫のようだが……)
そこまでは判明したが、一体どこの、誰の倉庫なのかは皆目見当がつかなかった。いくら村医者のアルベルトであったとしても村に無数に存在する倉庫一つ一つの内部までは把握しているわけがない。彼はそこまで推理したところで考えるのをやめた。
「ぅ……ゴホッ、ゴホッ」
「!?だ、だれかいるのですか?」
突然、視界外から何者かの咳き込む声が聴こえたものだから、反射的に問いかけるアルベルト。その声はひどく弱弱しく、そして年老いた老人男性の声であった。
その声はとても近くの場所から聴こえており、暗闇の中目を凝らし必死に姿を探し求める。そしてアルベルトは山のように積まれた荷物の隙間からひどく衰弱しているだろう老人の姿を発見することができた。
不用意に近づいていい相手かどうかは定かではないが、この状況はただ事ではないと直感したアルベルトは拘束された身を這いずる様に動かし老人の元へと向かってゆく。
「や、やはり貴方は……!!」
「その声は……アルベルト先生か……ゴホッ、ゴホッ!」
見間違えることはなかった。しわがれた声に小さく縮こまった背、ナサリ村の中でもこれほどの老人など数えるほどしかいない。その中でアルベルトが一番に思い当たる人物など彼以外にいなかったのである。
「村長!大丈夫ですか!?」
「なあに、心配はいりませんわい……少し埃っぽくてのう」
「ご老体をこんな場所に幽閉するなんて……いったい何が起きているのですか。僕にはさっぱり……」
突如として襲いかかる情報量に彼の頭はパンクしそうになってしまう。目が覚めたらどこかも知れぬ倉庫で、身柄を拘束されており、なぜか村長も拘束されていた。全く持って意味がわからないことだらけである。不安は焦燥感へと変わり、何かとんでもないことが起こるのではないか、もしくはもう起きてしまったのかと再び頭の中を思案がぐるぐると回り始めた。
そして、ぶつぶつと独り言を話すアルベルトの堂々巡りを止めたのは村長のたった一言だった。
「ナサリ村はもう終わりじゃ……もう、なにもかも……」
「なん――」
ぽつり、ぽつりと村長は語り始める。アルベルトはかすれ気味の村長の声を一字一句聞き逃さぬよう耳を澄ませた。
「実のところわしも詳しいことはよくわからん……アルベルト先生が行方不明になり、村に奇病が蔓延して治療する者がおらず、不満に耐えかねた村人らが暴動が起こした。その結果がこれじゃ。村長のわしが捕らえられ、村は変わり……ゴホッ、ゴホッ!!」
「な、なにを……僕が行方不明??奇病?暴動???」
全く身に覚えのない出来事を説明され狼狽えるアルベルト。
「アルベルト先生。先生が最後に覚えている記憶はどこまでじゃ。どこで記憶が途絶えておる」
「僕は……そう、救援…………じゃなくて手紙
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