■徳田さん(仮名) 女性 17歳 職業:高校生
・初診
『それでは次の患者さんどうぞ』
「し、しつれいします」
『はい、それではおかけになってください』
『今日はどういったお悩みでご受診されました?』
「あ、あの……わざわざこんなクリニックに来てまで言うことじゃないとは思うんですが……」
『ここはメンタルのクリニックです。何でも相談してくださって結構ですよ』
「……じ、実は私、クラスに好きな人がいるんです」
『ええ知ってますよ』
「エッ……ま、まだなにも」
『目を見ればわかります。貴女はクラスに好きな人がいる、けれどその人はクラス中の人気者で私なんかが相手になんてされるわけない、うだうだしている間にあの人がとられちゃう、そんなのはいやだ……だいたいこんなところでしょうか?徳田さん』
「すごい……やっぱり噂は本当だったんだ」
『噂?』
「あ、はい。最近ここら近辺で話題になっているんですよ。腕のいい精神科医のいるクリニックがある、って」
『フフ、それは光栄ですね。医療従事者として、経営者として冥利に尽きるというものです』
「あ、すみませんつい……」
『いえいえいいんです。こうやって患者さんとコミュニケーションをとるのも大事な治療の一環ですからね。
それでは話を戻しましょう。徳田さん、貴女はその人のことが本当に好きなのですね?』
「はい……相談できる相手もいなくてずっと一人で悩んでたんです。付き合えることなら付き合いたい、けれどもしフラれたとしたらきっと立ち直れないのはわかりきってますし、そもそも告白する勇気もないですし……」
『徳田さん。一旦その不安はすべて忘れてしまいましょう』
「ええ……忘れちゃっていいんですか?」
『そう。忘れて一度空っぽになってしまえばいいのです。そしてまっさらな自分を見つめて自問自答して見ましょう』
「…………」
『貴女はなぜその人のことを好きになったのですか?』
「半年前……図書館で探しものをしていたら偶然ぶつかって……ええと、落とした本を拾ってくれたときの姿が妙にカッコよく見えて……」
『一目惚れということですか』
「それともちょっと違くて……なんといいますか、私は昔からボサボサ髪の瓶底メガネで根暗な女子で通ってきたのでですね、えーと、うぅんと」
『生きる世界が違う一種の憧れのようなもの、違いますか?』
「……!そう、そうです。まるで私と真逆の世界で生きてきたようなあの人がとても素敵に見えたんです。でも……」
『でも?』
「怖いんです、私」
「私と違いすぎる彼が憧れであると同時に怖くもあるんです。本当に私なんかが、私風情が話しかけていいものなのか、そう考えると不安で不安でたまらなくって……」
『徳田さん』
「は、はいっ」
『”私なんか”だなんて言っちゃいけませんよ。貴女だってちゃあんとした一人の女性なのですから。自らを卑屈する必要なんてありません』
「で、でも私……」
『徳田さんのお話し、そして話し方と仕草を見聞きしてわかりました。貴女には少し自信が足りなさすぎます』
「自信、ですか」
『ええ。徳田さん、貴女は物事を考えるにあたってまず否定から始まりませんか?○○はできない、私なんかじゃ無理、どうせ○○なんだから……こういう具合に』
「そう言われれば、そう……なのかもしれません」
『彼に告白して成功させるにはまず自分の欠点をよく知り改善していかなければなりません。考えてみてください。例えば徳田さんがとある男性二人に告白されたとして片方が自分に自信があって元気たっぷりの男性、もう一方は自信がなく根暗気味の男性。貴女ならどちらを選びますか?』
「そ、それはもちろん元気のある男性を選びますが……でも私なんかだったら根暗の男性の方があってるんじゃないかって思い…………はっ」
『そう、そこなのです。普通は元気があって頼りになる男性を選ぶはずです。元気があるということは生物学的にも子孫を残せる可能性が高く、女性の本能としてそちらを選ぶ傾向が多いですからね。しかし徳田さんはそれすらも自信がない、自分なんかが……そう思って逆の方を選んでしまった。もう、わかりますね』
「……私は自分で思っていた以上に……ネガティブ思考だったようです」
『まずはその性格を治さなければなりません。たとえ今のまま告白が成功したとしても彼の方が耐えきれなくなって別れを切り出さる可能性も否定できませんから』
「そう、ですね。ですが性格を治すだなんてできるのでしょうか」
『お任せください。当院スタッフはすべてその道のプロです。自信をもって徳田さんを完璧にエスコートして改善させてあげますよ』
「……!!先生っ、私頑張ってみようと思います。頑張って少しはまと
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