そこには何もなかった。
そこには1人の男がいた。
その他は何もなく、
その他は何もせず、
男はただ、そこにいた。
『ユーロ様、先ずは何方へ?』
ユーロの旅路に同行することを選んだメイド長、リミシ。
彼女はユーロの後ろを歩きながら、楽しそうにユーロに話しかける。
そんな彼女を見て眉間に皺を寄せながらユーロは答える。
『先ずは帝国へ行く。そろそろ日も沈むから今日は帝国の宿で眠る。』
『畏まりました。何か他にもご用が?』
『……教会。』
街道を歩きながら話す2人だったが、ユーロの口から教会の言葉が出た瞬間、リミシは足を止めた。
『ユーロ様…聞き間違いでは、ないのですね?』
『ああ。』
『と、いうことは…』
『そうだ、デュリムに会いに行く。』
言い終えた瞬間、ユーロは何かに腕を掴まれ進行を阻止される。
相手は当然、リミシだ。
『離せ。』
『嫌です。』
『(だから言いたくはなかったんだ…)』
しかしリミシの事だ、是が非でも付いて来るに違いない。
ならば話してしまおうとユーロは考えたが、結果はユーロの予想通りになった。
『何が嫌なんだ?』
『あの方にお会いするのが。』
『用があるのは俺なんだが?』
『だから嫌なのです。』
『ただ預けていた物を返してもらうだけだ。』
『それで、終わりになる筈が御座いません。』
『他に何がある…。』
『デュリム様に床へ誘われます。』
『だから?』
『ですから…、その…』
リミシは顔を上げず押し黙り、徐々に掴んでいた力も緩み、ユーロの腕は解放される。
『リミシ、今から俺の問いに答えろ。いいな?』
『はい…。』
『問一、俺は誰だ?』
『ユーロ・K・リヒターベルマ様です。』
『問二、俺は何だ?』
『カルビュル国の唯一の生き残りで、私が暮らしていた邸の主です。』
『問三、俺の体は?』
『魔物の魔力干渉を一切受け付けない、特殊にて特異、極めて希少な存在です。』
『問四、俺の師は?』
『ジパング地方の方で、ユーロ様に武術、妖術を教えた方です。』
『問五、俺の学は?』
『魔法学、主に魔術学、魔術品などの分野です。』
『………で?』
『…………。』
『それだけ把握していて、何故教会に行くのを、』
『それでも!!』
ユーロが言い切る前にリミシは声を放つ。
滅多に出さない声量で。
『それでも、心配なのです…。ユーロ様が拐かされるかと…。』
『それが本音か…。』
分かりきっていた事だが、改めて聞くユーロは溜息を吐く。
『兎に角、教会に預けた魔術品がないと旅に支障が出る。あれは必ず取りに行く。』
『しかし…』
『嫌なら邸へ帰れ。』
『っ…、畏まりした。』
『全く…。』
そうして歩き出そうとした。ユーロは足を止め、後ろにいるリミシへ顔だけ向ける。
『お前にすら手を出していないのに、他に出すと思うか?』
『っ!!!』
その言葉にリミシは耳を立て、徐々に顔を赤く染め上げていく。
彼女の反応を見てユーロは小さく鼻を鳴らすと、再び歩き始めた。
『早くしろ。暗くなると厄介だ。』
『ハ、ハイっ!』
ユーロの後ろから、リミシの嬉しそうに風を切る尻尾の音を聞き、ユーロは溜息を吐いた。
『あの、ユーロ様?』
『何だ?』
『デュリム様にお預けしている魔具とはどのような?』
一悶着があった後、リミシはふと気になった事を聞いていた。
『誰が聞いているか分からないから詳しくは言えないが、その魔道具は万魔殿(パンデモニウム)に厳重に保管してある。』
『万魔殿に、ですか…。』
万魔殿、堕落した神により時空が歪んだ空間。
そこでは時すら歪んでおり、老いも餓えもないと言われている。
『それ程、凄まじい魔具まのですか?』
『まぁ、下手をすれば『お宝だな
#8264;』ム?』
漸く帝国が見えて来たかに思えた矢先にユーロ達の眼前に複数の人影。
『その話、アタイ達も聞かせろー!』
『聞かせろー!』
『聞かせろー!』
『ユーロ達、この子達は…。』
『あぁ、ゴブリンだな。』
目の前には三体のゴブリンが仁王立ちでいた。
『アタイ達は街道を通る奴等からお宝を奪うハンターだ!』
『らしいな。』
『ついでに街道を通る男共もかっ攫っていくハンターだ!』
『らしいな。』
『ぶっちゃけお宝も男もたらふく頂いたんだけど多いに越した事はない!』
『らしいな。』
三体のゴブリンの後ろには輸送用の馬車と、その中に溢れんばかりの荷物と男の山が詰まっていた。
『『『お前さっきから反応薄くないか!?』』』
『申し訳ありません、ユーロ様は感情の起伏は余り良くはなく…』
『謝るな。』
ユーロの隣まで来たリミシは
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