蛇嫁日記・その1ページ

「むぅ……」
春の早朝、魔界から程近い某山村の片隅、若い木こりの夫婦が住まう一軒家。
一番鳥の鳴き声を目覚ましに、いつも通りに目を覚ました夫は、
これまたいつも通りに、自分に抱きついて幸せそうに寝こける妻を見やって、
困ったような唸り声を発した。

身動きが取れん……だって僕のかみさん、ラミアだし。

腿から始まり、脛の中ほどでUターンし、最後に互いの腰を固定するような形で、
緋色の鱗に覆われた太い蛇体が巻きついていた。
おまけに肩には両腕が回されている。自由になるのは右腕と首から上くらいだった。

穏やかに上下する豊満な乳房の感触や、
目の前のなめらかな柔肌と波打つ金髪から漂ってくるほの甘い匂いに反応して、
ただでさえ朝勃ちしているモノが痛いくらいに張り詰めていた。
分身の惨状に軽く苦笑しつつも、夫は妻の肩を揺すりながら呼びかけてみる事にした。

「スカーレット、朝だよ、起きて」

……効果なし。ついでに軽く頬や額を叩いてみたが、眉がしかめられただけで、
拘束は小揺るぎもしなかった。
このままでは、仕事仲間との待ち合わせに遅れてどやされる。
それはまっぴらだったので、彼は毎朝の恒例になっている起こし方をする為に、
目の前でうっすらよだれを垂らしながら綻びている、紅い唇に口づけた。

昨夜、散々彼の唇と男根を吸って食んだそれは、やはりしっとりと柔らかく甘かった。
ずっと吸いついていたい誘惑に駆られるが、今は起きてベッドを出なくてはならない。
口で口を塞いで、ついでに尖った細く高い鼻をつまむ。
息苦しさで目を覚ましてくれれば、この後に控えている工程を省略できるかな?
彼はそう思いながら、妻の鼻をつまんでみたのだが……。

一瞬、こっちの息が止まりそうになった。いつの間にか肩から外れていた左手が、
彼の睾丸を思いっきり捻り上げたからである。
涙ぐみながら彼は鼻から手を離し、妻の顔を見た。
目は閉じられたままだが、見事なへの字口だった。
と、子供っぽい唸り声とともに、唇が突き出された。
ゴメンねとすまなそうに呟きながら、彼は再び妻に口づけた。
そして抱きしめ、肩や背中を腕全体で擦る。今度は嬉しそうに唸りながら、
妻もそれに答えるように胴体を擦りつけてくる。しばし、唇や舌が絡み合う水音と、
互いに腕や胴体を擦り合わせる衣擦れや摩擦音が寝室を満たした。

「ん〜、にゅ〜…………」

ひとしきり身体を擦り合い、ぬくもりを共有すると、
含み笑いと唸り声の中間のような音を鼻から漏らしつつ、妻は夫の股間に手をやった。
そして下穿きをずらし、硬く張り詰めた逸物をしごき出す。
親指と人差し指は小さく輪を作ってカリ首をこすり、
残り三本の指は波打たせるように緩急をつけて幹を締め上げた。
口を吸い合ったまま、腰を引いて妻の頭を撫でる彼の表情は、
諦観にかすかな期待が混じった苦笑であった。

程なくして、夫は妻の肩口を軽くタップした。
ひときわ強く夫の唇と舌を吸いながら、
妻は手のひらで夫の亀頭を包み込み、射精を受け止める。
尿道口を指先でそっとなぞり、残っていた最後の一滴まで精液を掬い取ると、
彼女は唇を離して目を開いた。

実に目つきの悪い三白眼だった。
おまけに瞳孔は、まるで毒蛇のそれを髣髴とさせる、縦に細いスリットだった。
顔の造作そのものは美形なのだが、鋭く尖ったパーツが多いため、
寝起きである事を差し引いても機嫌の悪そうな顔立ちである。
出るべきところは出て、引っ込むべきところは引っ込んだ体型も相まって、
いささか少女趣味なネグリジェが、どこかちぐはぐな雰囲気を醸し出していた。

金髪金眼の彼女は、不機嫌そうな無表情のまま、左手を口元に持っていった。
そして付着した精液を舐め取る。手のひらに溜まった塊に始まり、
爪の先や指の股にこびりついた雫まで、一滴残さず綺麗に。
それが終わると一息つき、にっこりと笑う。吊り上がった頬が白目の下半分を隠し、
表情が一気に愛らしさと、先程まであったものとは別方向の色香に染まった。

「おはよ、あなた。今朝もご馳走様……相変わらず寝癖ひどいわねー」
「おはよ、スカーレット……僕の髪は四六時中こんなだよ」
「あ〜、そーだったわね……さて、じゃあ今日も一日、頑張りましょうか」
「あはは……うん。ところでね」

と、癖の強い黒髪の後頭部を掻きながら、夫は伸びをする妻に呼びかけた。
毎朝のこれ、せめてキスとハグくらいで抑えてもらえないかなー、と。
返答はへの字口から発せられた二言だった。
すなわち、「えー、やだ」である。

「だってだって、わたしってラミアじゃない。半分ヘビよ?だから寒いのはやなの。
 身体擦ってあっためてもらわないと、完全に目が覚めないんだもん」
「えーと、僕だっておしくら饅頭まではいいんだよ?
 た
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